「贅沢は言えない」地方大会から全試合完投…12失点も継投しなかった監督の苦悩

徳島商・森煌誠【写真:喜岡桜】
徳島商・森煌誠【写真:喜岡桜】

徳島商のエース・森が7試合すべて完投も、智弁学園に12失点で力尽きる

 第105回全国高等学校野球選手権記念大会は13日、大会8日目が阪神甲子園球場で行われ、第2試合では徳島商(徳島)が6-12で智弁学園(奈良)に敗れ、16強入りとはならなかった。U-18日本代表候補の徳島商エース・森煌誠投手(3年)は、18安打を浴び12失点で力尽きたが、155球の力投にスタンドからは温かい拍手が送られた。

 大会屈指の右腕と注目されてきた森。全49代表でただ一人、地方大会の全試合を完投し、甲子園初戦では愛工大名電(愛知)を相手に111球の熱投で1失点完投と、“鉄腕”ぶりを発揮していた。しかし、この試合は初回に3点の援護をもらったものの、3回に3点、6回には4点を失った。今夏初めて1試合2点以上を許した森は、「味方が先制点してくれたのに、守りきれなくて申し訳ない」と悔やしさを口にした。

 野球界では選手への負荷を考慮し、球数制限、投手分業制が主流となってきた。完投すら珍しい時代だ。それでも徳島商・森影浩章監督は、「決勝まで行っても森しか考えていなかった」と継投の考えはなかったと明かす。その裏には公立高校ならではの苦悩があった。

公立高校が抱えた苦悩…1人にしか投げさせなかった理由

 仙台育英(宮城)のように150キロ超える投手が3人、さらに140キロ以上を投げる選手も複数人いる高校があるのも事実。だが、簡単に選手交代ができるような高校は、多いわけではない。森影監督は「1人の投手で戦い抜く難しさはもちろんあります。でも公立高校はそんな贅沢も言えない……」と、本音を漏らした。

 なんとか勝ちたい。甲子園に出場したい。そんな選手たちの想いを叶えるためにも難しい決断だった。試合中に監督から森に「(まだ)行けるか?」と尋ねることはあった。それでも森は続投を直訴。「自分が投げ切るしかない」と強い覚悟があった。

 1度もベンチに下がることがなかった森だったが、9回裏に自分の打席が回ってくると、「代打を送ってください」と直訴した。「諦めてはいませんでした。それでも、せっかく甲子園に来た。控えの選手にも甲子園の土を踏んでもらいたかった」と森。主将らしい仲間への想いが、そこにはあった。

「僕たちのために応援に来てくれて感謝しています」。終始冷静な表情で質問に答えていた森だったが、応援してくれた人々への想いを語ると、初めて涙があふれた。マウンド上は決して“一人”ではなかった。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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