18年ぶりVの阪神は「もっと強くなる」 元コーチが予感する“黄金時代”到来のカギ

岡田彰布監督を胴上げする阪神ナイン【写真:共同通信社】
岡田彰布監督を胴上げする阪神ナイン【写真:共同通信社】

2005年優勝時の2軍バッテリーコーチ・中尾孝義氏が今季優勝を分析

 2005年以来18年ぶりのリーグ優勝にこぎつけた阪神。前回優勝時に2軍バッテリーコーチを務めていた野球評論家・中尾孝義氏は「生きのいい若手がどんどん台頭して勢いをつくり、成長途上のチームが優勝を成し遂げた比較的珍しいケース」と評する。となれば、来季は選手個々の成長とチーム力アップが期待できるが、阪神という超人気球団特有の“課題”もあると言う。

「優勝するチームは普通、ベテランが流れをつくり、若手がそれに乗っかるケースが多い。2005年の阪神もそうでした。しかし今季の場合は逆に、若手が勢いをつくり、中堅・ベテランが乗っかった」と中尾氏。確かに、2005年の優勝時は、1968年生まれで37歳のシーズンを迎えていた金本知憲氏と矢野輝弘(現・燿大)氏のコンビが野手陣を牽引。投手陣は、ジェフ・ウィリアムス氏、藤川球児氏、久保田智之氏のリリーバー3人による勝利の方程式「JFK」の確立が画期的だったが、勝ち頭は15勝を挙げてリーグ最多勝に輝いた、金本・矢野コンビと同い年の下柳剛氏だった。

 対照的に今季は、不動の4番・大山悠輔内野手もまだ28歳。大山と同い年の近本光司外野手、2歳下の中野拓夢内野手ら中堅が安定した成績を残し、24歳の佐藤輝明内野手、ドラフト1位ルーキーの森下翔太外野手、来日1年目のシェルドン・ノイジー外野手らの打撃も光った。投手陣は3年目・25歳の村上頌樹投手がブレークし、現役ドラフトで移籍した28歳・大竹耕太郎投手、27歳の伊藤将司投手が先発ローテの軸として活躍。24歳の才木浩人投手、21歳の西純矢投手らのフレッシュな投球がチームを勢いづけた。

 今年の優勝メンバーの顔ぶれを見ると、2016年ドラフト1位の大山、17年1位の馬場皐輔投手、18年1位の近本、19年1位の西純、20年1位の佐藤輝、22年1位の森下。まだ高卒2年目の21年1位・森木大智投手はともかく、最近の“ドラ1”が確実に戦力となり、生え抜き選手の充実につながっていることがわかる。

 中尾氏は2009年から2016年には、阪神のスカウトを務めた。「実は最後の2年は、いずれも前日のスカウト会議まで投手を1位指名する予定で、当日になって野手に変わりました」と明かす。2015年には高山俊外野手との交渉権をヤクルトとの抽選の末に引き当て、翌16年には大山を単独指名。2016年の場合は当時の金本監督、オーナー、球団社長ら上層部が最終決断を下したそうだが、もし大山が入団していなかったら、果たして阪神の現状はどうなっていただろうか。

2004年から2006年まで阪神2軍でコーチを務めた中尾孝義氏【写真:中戸川知世】
2004年から2006年まで阪神2軍でコーチを務めた中尾孝義氏【写真:中戸川知世】

一抹の不安は「阪神が12球団で一番ちやほやされる」こと

 中堅・若手中心で成し遂げた優勝だけに、来季以降さらに伸びしろが望める。中尾氏は「この成長途上のメンバーで優勝できたのは、すごいことだと思います。今季より来季の方が強くなるはず」とうなずく。とりわけ、イチオシは佐藤輝だ。「今季は数字以上に、打撃で覚醒の兆しが見えました。昨季は“手打ち”に見えることが多かったのですが、下半身と手の動きのリズムが合ってきました」と説明。「シーズンを通して5番か6番に定着し、30本塁打を打てるようになれば、チームは本当に強くなる」と期待を寄せる。

 長打力を発揮した新人の森下についても「あれだけバットを強く振れるのは魅力だが、まだ確実性は低い。来季以降は、どれくらいの力で振ればいいのかがわかってくるのではないか」と見ている。投手陣についても「村上、才木、西純あたりはまだまだよくなる」と占う。

 ただ、一抹の不安もあるという。「阪神の選手たちは、メディア、ファンの方々をはじめ周りの人たちにちやほやされる。それがマイナスにならなければ、まだまだ伸びると思います」と語る。

 選手として中日、巨人、西武、現役引退後にはコーチとして西武、横浜(現DeNA)、オリックス、阪神にも所属した経験から「たぶん、阪神が12球団で一番ちやほやされると思う」と言う。阪神は人気球団だけに、人気球団の阪神はファームの選手に至るまで、番組、イベント、会食などのオファーが頻繁にかかるとされる。そういう扱いが“慢心”につながる選手もいないとは言えない。優勝したとなれば、なおさらだ。

「今季は勢いに乗って優勝したが、真価が問われるのは来季」と中尾氏。1950年の2リーグ分立後では6度目のリーグ優勝を飾った阪神だが、連覇は過去に1度もない。“常勝化”へ向けて、ここからが鍵になる。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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