3冠王に“射程圏”の近藤健介　パ19年ぶり快挙なるか…「投高打低」でも不変の圧倒的技術

近藤健介は今季、鷹へFA移籍…本塁打数が飛躍的に伸びた

　ソフトバンクの近藤健介外野手が打率、本塁打、打点の主要3部門でリーグ上位の成績を残している。昨年はヤクルトの村上宗隆内野手がセ・リーグ3冠王に輝いたが、パ・リーグ3冠王は2004年の松中信彦氏（当時ダイエー）が最後。今回は、近藤の活躍を振り返り、2004年の松中氏とのケースを比較する（成績は15日時点）。

　近藤は2011年ドラフト4位で横浜高から捕手として日本ハムに入団。以降は三塁手や外野手で出場機会を伸ばし、4年目の2015年に129試合に出場。リーグ3位の打率.326をマークした。2017年には故障の影響で57試合出場にとどまったが、打率.413、出塁率.567、OPS1.124という圧倒的な打撃成績を記録し、「幻の4割打者」として話題を呼んだ。2019年と2020年に2年連続で最高出塁率のタイトルを獲得した。

　今季はソフトバンクに移籍し、開幕前のWBCでは2番打者として日本代表の世界一に貢献した。シーズンでは交流戦で首位打者に輝いて以降は本領を発揮。持ち前のコンタクト力と選球眼に加えて、長打力でも大きな向上を見せている。

　2004年シーズン、松中氏は130試合で打率.358、44本塁打、120打点。近藤は126試合を消化した時点で打率.300、21本塁打、78打点。数字の面では大きな差が生じているが、リーグ全体の打撃成績に目を向けると、また違った側面が見えてくる。2004年のリーグ平均打率は.277、リーグ全体の本塁打数は920本、リーグ全体の打点数は3913。2023年はそれぞれ.242、544本、2470と大きく数字が下落している。

　投手成績に目を向けると、リーグで最も防御率が優秀だった西武が4.29だった。今季はオリックスと西武のチーム防御率が2点台で、最も悪い楽天でも3.55と、昨季に引き続き投高打低の傾向が顕著。2004年とはまさに真逆だ。

　また、2004年はシーズン中に開催されたアテネ五輪の日本代表に各球団から2選手が派遣され、その間に行われたNPBの試合を欠場した。松中氏は招集されなかったものの、チームメートの城島健司氏が参加している。城島氏は代表に派遣された時点で、98試合で33本塁打。松中氏が130試合で44本塁打を放った一方で、城島氏は最終的に116試合で36本だった。

　首位打者争いを繰り広げていた小笠原道大氏も五輪に出場。代表派遣時の打率.363に比べ、シーズン終了時の打率が.345と、復帰後は数字を落としていた。こうした2004年ならではの要素が、タイトル争いにも影響を及ぼしていた。

WBC後にシーズンイン、投高打低でも変わらぬ打率

　投高打低の傾向が強まるパ・リーグの状況が、近藤にとって“追い風”になっている側面はあるだろう。昨季までのシーズン最多本塁打は2021年の11本。本塁打が多い打者ではなかった。今季は比較的少ない数字での争いとなっており、長打力が開花しつつある近藤にとっては大きなチャンスを迎えている。

　ここまでの打率.300は、キャリア平均の打率（.306）と大差のない数字。しかも今季は、首位打者争いに関しても控えめな数字になっている。本塁打の出にくい札幌ドームからホームランテラスが設置されているPayPayドームに本拠地が変わったタイミングで、周囲の本塁打数が減少した点もプラス材料だ。

　今季の近藤はFA宣言による移籍を経験したことに加え、開幕前のWBCへの出場も重なり、通常のシーズンとは異なる調整が求められた。開幕後は4月の月間打率が.256、5月は同.235だった。松中氏も2006年WBCでは日本代表の4番として世界一に貢献。同年のシーズンでは打率.324、出塁率.453で自身2度目の首位打者と、3年連続の最高出塁率に輝いた。一方で、故障の影響もあって19本塁打、76打点とポイントゲッターとしての数字は落としており、難しいシーズンを送ったという側面もあった。

　昨季の3冠王・村上も今季は成績を落としており、WBC直後のシーズンで苦しむ選手は少なくなかった。それだけに、近藤が今季3冠王を獲得すれば、その偉業はより一層の意義を持つことになるかもしれない。

　ハードルの高いトリプルクラウンの可能性をシーズン終盤まで残している近藤。球界屈指の巧打者は残るシーズンでさらに数字を伸ばし、世界一で始まったシーズンを歴史的な快挙で締めくくれるか。残り試合は、近藤のバッティングにこれまで以上に大きな注目が集まることだろう。

（「パ・リーグ インサイト」望月遼太）

（記事提供：パ・リーグ インサイト）