2年ぶりの“定位置”に「冗談でしょ?」 オリ35歳のベテラン、久々の景色は「忘れることはない」

オリックス・安達了一【写真:荒川祐史】
オリックス・安達了一【写真:荒川祐史】

9月9日のロッテ戦でレギュラーシーズンでは約2年ぶりに遊撃手としてスタメン出場

 体に染みついた動きはベテランになっても忘れることはない。9月9日、ZOZOマリンで行われたロッテ戦、オリックスの安達了一内野手は約2年ぶりに遊撃手としてスタメン出場を果たした。2度の守備機会を無難にこなし、エース・山本由伸投手のノーヒットノーランに貢献。かつて、遊撃へのこだわりを誰よりも持っていた男に“本音”を聞いてみた。

「2軍でも守ってなかったので『冗談でしょ?』と。絶対にないと思っていたので、驚きが一番だった。しかもあの展開(ノーヒットノーラン)だったので、試合中はふざけんなよって思いながら守っていました(笑)」

 今季はケガもあり2軍で過ごす時間が大半だった。練習でも二塁、三塁がメイン。リーグ3連覇に向け大事な終盤戦。2か月半ぶりに1軍昇格を果たした当日(9日)の試合前練習で中嶋監督から「今日はショートでスタメンな」と告げられた。

「マジっすか?」

「マジだよ」

 戸惑いながらも淡々と準備を進めるしかなった。

 遊撃でのスタメンはレギュラーシーズンでは2021年10月12日ロッテ戦(京セラ)以来、約2年ぶり。それでも、安定感ある守備は健在だった。5回1死走者なし、ロッテ・山口が放った打球は山本のグラブを弾き三遊間に転がった。逆をつかれる形になりながらも素早く捕球すると、悠々と一塁へ送球しアウトを奪った。

「やっぱりショートは(距離が)遠い。でも、セカンドに比べるとショートの方が動きやすい。一歩目の切りやすさとかを含めて。そこまで難しい打球もなくて、しっかり守れたので良かった」

オリックス・安達了一【写真:荒川祐史】
オリックス・安達了一【写真:荒川祐史】

「これからのオリックスは若い子がやっていかないとダメ」

 入団当初から決して派手なプレーは求めない。確実に取れるアウトを奪う。2016年に国が指定する難病の潰瘍性大腸炎と診断され、出場機会は一気に減少。2021年には紅林弘太郎内野手の台頭もあり、遊撃手から二塁手にコンバートされたが、積み重ねた経験値では負けることはない。

 過去に安達は「ショートを守れなくなったら引退する時」と語ったことがある。2年ぶりに“定位置”を守ったことで、もう一度、遊撃へのこだわりを聞いてみると「今はそこまではない」と即答した。難病と向かい合い、体調面を考えるとフルシーズンの出場は厳しい。内野の中心といえる遊撃手を固定することでチームも強くなる。実際に紅林が正遊撃手となってからリーグ3連覇を果たしている。

「自分も全試合は出られない。これからのオリックスは若い子がやっていかないとダメだと思うし。でも、紅林はまだまだっすけどね(笑)。もっと、やれることはあるんじゃないかなと思って期待しています」

 チームの次なる目標はクライマックスシリーズを突破し、日本シリーズの連覇だ。捕手以外、全ての内野を守れることを証明したベテランは「リーグ3連覇はできましたが、僕は日本一の連覇をしたい。そこに目標を置いてます」と口にする。

 ポストシーズンでも中嶋監督から突然の“遊撃指令”が出る可能性もある。苦笑いを浮かべながらも頼もしいベテランはこう答えた。

「あの試合は忘れることはないかな。もう、最後になるかもしれないし。でも、準備はしておきますよ」

○著者プロフィール
橋本健吾(はしもと・けんご)
1984年6月、兵庫県生まれ。報徳学園時代は「2番・左翼」として2002年は選抜優勝を経験。立命大では準硬式野球部に入り主将、4年時には日本代表に選出される。製薬会社を経て報知新聞社に入社しアマ野球、オリックス、阪神を担当。2018年からFull-Countに所属。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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