会見断り帰宅「微妙な空気になっても失礼」 強豪大学の誘いも…調査書ゼロで挑んだドラフト
今春の選抜で背番号「6」を背負い活躍した報徳学園の竹内颯平内野手
今年の「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」では、支配下72人、育成50人の計122人がNPB球団から指名を受けた。今回、Full-Countでは幼い頃からの夢を叶えるため、僅かな可能性にかけプロ志望届を提出した1人の高校生に迫った。
人生が変わるかもしれない運命の1日。報徳学園の竹内颯平内野手は、授業が終わると迷いなく帰宅した。「皆がお祝いしている時に最後まで待たせて、微妙な空気になっても失礼なので。僕自身はすごいドキドキしてます」。当初は同級生でオリックスから4位指名を受けた堀柊那(しゅうな)捕手とともに会見場を用意されていたが、自ら断りを入れた。
竹内は同校OBの小園海斗内野手(広島)に憧れ、報徳学園に入学。熾烈な競争に勝ち抜いてレギュラーをつかむと、今年の選抜大会では背番号「6」の正遊撃手としてスタメン出場。全5試合でヒットを放ち21打数7安打、打率.333の活躍を見せ準優勝に貢献した。
抜群の強肩を武器に“高校ナンバーワン捕手”と呼ばれた堀に比べると、派手さはない。だが、甲子園でも見せた華麗なグラブ捌き、球際の強さなどディフェンス面は高く評価されていた。選抜が終わった頃には強豪大学からオファーもあり、大角健二監督やコーチからも進学を勧められたが「3年生になった時から育成でも勝負したい。後悔はしたくない」と、NPB1本で勝負することを決めた。
12球団からの調査書はなく、指名される可能性が低いことも承知の上。進学を選択すれば、ある程度の大学にも難無くいける立場だ。それでも、リスクのある“ドラフト”を選んだ理由を「自分の人生に嘘はつきたくない。体が動く限りは野球をやりたい。これがダメでも4年後、6年後もプロを目指していきたい」と話す。決して思い出作りなんかではない。真っすぐな目で将来を見据えていた。
授業が終わり校庭に降りると堀の姿があった。ともに指名を待つ2人は「頑張れよ、応援してるよ!」「一緒にプロの世界でやりたいな」と笑顔で言葉を交わした。野球部以外の生徒たちも思いは同じ。「竹内、応援してるぞ!」「頑張れよ!」。校門を出るまで声援が鳴り止むことはなかった。
午後5時から始まったドラフト会議では支配下、育成を含め竹内の名前が呼ばれることはなかった。「いつか名前が呼ばれるように、これからも練習をしていくだけです」。どんな状況でも前向きに取り組んだ2年半の高校野球生活に悔いはない。歓喜の涙を流す時まで、歩みを止めずに自らの夢を追いかけていく。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)