矢野氏が語る“消えた引退試合”　「悲劇の世代」に共感…ノーギャラでひと肌脱いだ理由

高校野球総合
2023.11.02

「あの夏を取り戻せ～全国元高校球児野球大会2020-2023～」今月29日に入場行進

　新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年に夏の甲子園が戦後初めて中止されてから3年。今月29日から3日間、“悲劇の世代”と呼ばれた当時の球児たちが、手作りで甲子園球場などを舞台に「あの夏を取り戻せ～全国元高校球児野球大会2020-2023～」を開催する。ノーギャラで同大会の公式アンバサダーを引き受けたのが、前阪神監督の矢野燿大氏と、1980年の夏から5季連続で甲子園に出場し“大ちゃんフィーバー”を巻き起こした荒木大輔氏の2人だ。

　同大会は、2020年当時に東京・城西大城西高3年の野球部員だった大武優斗さん（武蔵野大3年）が発起人となり、有志の学生、ボランティアなど約50人で実行委員会を結成。同年の夏に各都道府県の高野連が行った独自大会の優勝校などに呼びかけ、44チーム約800人が参加する見込みとなった。

　29日には甲子園で、出場チームが5分ずつシートノックを行い、入場行進・セレモニー、特別試合2試合（対戦カードは後日発表）も予定されている。翌30日と12月1日には、兵庫県内の球場で出場チームが交流試合を1試合ずつ行うことになっている。観戦は無料。さらに「スカパー！」が無料中継と無料ネット配信を行う予定だ。

　1日には都内の武蔵野大・有明キャンパスで記者発表会、交流試合の組み合わせ抽選などが行われ、矢野氏と荒木氏も出席した。

　矢野氏がアンバサダー就任の要請を受けたのは、2020年当時の阪神監督で、自身らの発案で甲子園の土を透明のカプセルに入れたキーホルダーを製作し、全国の高3野球部員約5万人に贈った経緯があるからだ。

　矢野氏は「（当時は）甲子園を本拠地に戦うチームとして、また野球人の先輩として、何か高校球児のみんなにエールを送りたい、ほんの少しの気休めであっても、『応援しているよ』という気持ちが届いてほしいという思いでした。監督・コーチ、選手、スタッフ、球団職員、（甲子園球場のグラウンド整備を請け負っている）阪神園芸のみなさんら全員で土を集め、全員でお金を出し合って作りました」と振り返る。

矢野氏が現役最終年の秘話公開「2軍で内野ゴロを打つ練習をしていた」

　一方で矢野氏は、現役最終年の2010年に「実は2軍で内野ゴロを打つ練習をしていました。最後の打席で高校球児のように、一塁にヘッドスライディングをして、自分の野球人生にケリをつけたかったからです」と“秘話”を明かした。ただ、同年は在籍していた阪神のクライマックスシリーズ出場権争いが最後まで白熱したため、矢野氏は引退試合でも出場できずじまいだった。

　矢野氏は「スタッフのみんなは、めちゃくちゃ大変だったと思う。よくここまで持ってきましたね」とねぎらい、出場選手らを「あの時に戦えなかったモヤモヤした思いをぶつけてほしい」と鼓舞した。

　荒木氏は東京・早実高1年だった1980年の夏から5季連続で甲子園出場。西武、レッドソックスなどで活躍した松坂大輔氏ら、当時「大輔」と命名される子どもが激増するほど人気を博した。アンバサダー就任にあたっては「もし自分が彼らのような立場に置かれていたら、その後野球と付き合っていけただろうかと自問自答しました」と吐露する。

　記者発表会では「甲子園って、めちゃくちゃいいところです。仲間とそこへ向かう価値のある球場だと思います」と語りかけ、「もしかしたら、高校在学当時とは違う野球になってしまうかもしれないけれど、甲子園球場のグラウンドに立って見える景色は、いつまでも同じだと思います。その景色をしっかり見て、次のステップに向かっていってほしい」と激励した。現在社会人の、もしくは将来社会人となる出場選手らのために、ネクタイピンを贈呈した。

　同大会の実行委員会では、必要予算約6450万円のうち、企業の協賛、クラウドファンディング（CF）などで約3000万円を調達済みだが、このままでは出場選手自身が宿泊費、交通費、傷害保険料を負担することになるという。前出の発起人・大武さんは「『自分たちで払いなよ』というご意見もあると思いますが、私たちとしては、資金的な理由で参加できず後悔する選手を出したくない。そういう部分で、ご支援をお願いいたします」と、さらなるCF（12月1日まで）への応募を呼びかけている。