横浜高の歴史築いた杉山遙希と緒方漣 プロと大学…“盟友”が歩むそれぞれの「道」
村田浩明監督のもと1年夏から甲子園を経験した杉山遙希&緒方漣
10月26日に開催されたプロ野球ドラフト会議で、横浜高校のエース左腕・杉山遙希が西武から3位指名を受けた。野球部員とともにテレビ中継を見守る中、指名の瞬間に、まるで自分のことのように喜んでいたのが、隣に座っていたキャプテンの緒方漣だった。
ともに1年夏から甲子園を経験し、2020年4月に就任した村田浩明監督のもと、横浜の新たな歴史を築いてきた。来年からはプロと大学に分かれ、次なる目標に向けて歩みを進めていく。
ドラフト会議の約2週間前、横浜高校の長浜グラウンドを訪ねると、関東大会を控えた新チームがシート打撃に取り組んでいた。レギュラー相手に2番手で登板したのが杉山だった。
ストレート主体のピッチングで後輩と対する中で、「打たせてもらってもいいですか?」と村田監督のもとに笑顔でお願いしていたのが緒方だった。手には木製バット。台湾で開催されたU-18W杯ではMVPを受賞し、木製でも十分に戦えることを証明した。
初球、何で入ってくるのか。ワクワクしながら見ていたら、タテのカーブで1ストライク。完全に、緒方の裏をかいた配球だった。2球目は強いストレートで押し込み、ショートゴロ。杉山のピッチングに軍配が上がった。
寮では同部屋になることも多かった“盟友”
緒方は以前から「シートバッティングで、杉山からクリーンヒットを打ったことがない」と話していたが、クリーンヒットは次なる戦いへ持ち越しとなった。
2人1部屋の寮では、同部屋になることが多く、学校でもグラウンドでも寮でも、同じ時間を過ごしてきた。今夏、神奈川3連覇を目指した戦いは決勝で慶応に逆転負け。試合後の取材では、お互いの存在を涙ながらに口にした。
「杉山があっての自分たちの代。杉山が頑張っていたので自分も刺激を受けて、たくさんのことを乗り越えられることができた。杉山に感謝したいです」(緒方)
「自分も緒方がいなければ、ここまで絶対に来ることはできなかったと思います。どんな時も、緒方がいつも先頭に立ってくれて、自分たちを引っ張ってくれました。本当に緒方には感謝しかないです」(杉山)
緒方は東都の強豪・國學院大進学へ
卓越した守備力と巧みなバットコントロールが魅力の緒方。U-18W杯では、夏の大会後から本格的に始めたセカンドで安定した守備を披露。ファーストまで近い距離であっても、しっかりと足を使って送球し、基本に忠実なプレーを見せた。
2年秋の段階では「高卒プロも考えています」と口にしていたが、自分自身のサイズ(169センチ、69キロ)を考え、周囲と相談したうえで大学進学を決めた。東京六大学からも誘いを受けていたが、「守備力に優れた内野手が育つ」という指導力の高さに惹かれ、東都大学の強豪・國學院大に進む予定だ。
中3時、オセアン横浜ヤングで活躍していた姿に惚れて「横浜の新たな歴史を作ってほしい」と口説いたのが、横浜・村田監督である。高校3年間ともに戦い、3年夏の敗戦時には一緒に涙を流した。
「緒方はリーダーシップに優れ、常に後輩の模範となる取り組みをしてくれて、本当に素晴らしい選手だと感じます。監督の立場からすると、緒方のような選手がひとりいてくれると、とても心強い。人間的にも立派で、周りの方々から愛され、応援される選手です」
取材対応も、律儀で丁寧。勝った時も負けた時も取材者の目を見て、自分の言葉で話していたのが印象深い。
西武から3位指名…杉山は2年冬を越えて球速がアップした
東京城南ボーイズで主戦として活躍していた杉山は、中3夏の時点ではまだ進路が決まっていなかった。神奈川県内のほかの私学も考えていたが、横浜の練習を見学した際に、グラウンドの熱気と緊張感に惹かれ、名門入りを決意した。
高2秋までは緩急を駆使した投球術が目立っていたが、冬から「ストレートの球速を上げる」をテーマにウエートトレーニングに励み、筋出力がアップ。股関節を使ったフォーム作り、ボールの内側に回転をかけるリリースと、技術面にも改善を加え、3年夏にはフォーシームの平均球速が140キロを超えるまでに成長した。
ただ、決勝の9回表には、フルカウントから勝負にいったチェンジアップが高めに浮き、慶応の渡邉千之亮に逆転3ランを叩きこまれた。
村田監督は「勝負がかかった1球で、ベストボールをどれだけ投げ込めるか。これからの杉山のテーマになる」と語る。2年秋の関東大会準々決勝(対健大高崎)、3年春の県大会準々決勝(対相洋)、そして3年夏の県大会決勝(対慶応)と、勝負の1球が甘く入り、決勝打を浴びている。しかも、すべてが長打だ。
杉山自身は、「メンタル面と技術面に原因がある」と客観的に分析する。苦い経験を経たからこそ「大事な試合で勝てるピッチャーになりたい」と目標を口にする。
商売道具である左腕には細心の注意を払い、腕に負担がかかるボウリングはやらずに、風呂に入る時は左手の指先がふやけないように湯船から出す。また、ショルダーバックをかけるときは必ず右肩にかけ、爪はヤスリで手入れ。ピッチャーとして生活をしていくための心構えは、備わっている。
5年後、10年後、2人にどんな未来が待っているのか。再戦の舞台を楽しみに待ちたい。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。