突如消えた“2020年の夏” わずか2週間で3000万円超の反響…企業を動かした若者の信念

発起人の大武優斗さんと(左)と謝敷正吾氏【写真:宮脇広久】
発起人の大武優斗さんと(左)と謝敷正吾氏【写真:宮脇広久】

交通費、宿泊費などは出場選手自己負担→実行委員会支給へ

 2020年に新型コロナウイルスの感染拡大で、夏の甲子園大会が戦後初めて中止となってから3年。“悲劇の世代”の元球児たちが今月29日に甲子園に集結し「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児野球大会2020-2023」が開催される。13日に、都内の「株式会社オープンハウスグループ」本社で2回目の記者発表会が行われ、同社が大会のスペシャルナビゲーターに就任したことなどが発表された。

 1日の記者発表会以降、反響が多く寄せられ、約2週間で支援を申し出る企業や個人が続出した。1日の時点では大会予算約6450万円のうち、クラウドファンディングや企業協賛などで調達できていたのは3000万円程度。不足分を埋めることが大きな課題だった。

 ところが、12日までの2週間足らずで、この取り組みに共感した187人の個人、19社の法人が新たに支援を申し出た。資金は一気に2.15倍の6450万円に跳ね上がり、当初の大会予算額を達成した。

 この支援急増のおかげで、当初は参加選手の自己負担となる見通しだった交通費、宿泊費、傷害保険料が、原則的に大会実行委員会から支給される見通しとなった。元球児の“途切れた夢”実現へ、強力な追い風だ。実行委員会は13日、「完全開催決定」を宣言した。

 実行委員会発起人の大武優斗さん(東京・城西大城西高出身、武蔵野大3年)は、「多くの方々からご協力をいただき、資金を集めることができています。参加選手の人数がこれから増えてくると、必要な交通費、宿泊費の数字も変わってくると思いますが、現時点で目標としていた額が集まったので、『完全開催決定』という言葉を使わせていただきました」と笑顔を浮かべる。クラウドファンディングはそのまま予定通り12月1日まで続け、「もし余剰が出た場合は、野球界に還元すると当初から決めていました。小学生や中学生へバット、ボールなどに変えて寄付したいと思っています」と説明した。

 この大会には、2020年の夏に甲子園大会の代替として各都道府県が開催した独自大会の優勝チームが出場する。47都道府県49地区の優勝チームなどのうち、現時点で42チームが参加を表明。交通費、宿泊費などの負担がなくなった効果で、参加予定人数は1日時点から70人増え、総勢635人となった。

元ヤクルト・上田剛史氏、大武優斗さん、謝敷正吾氏(後列左から)【写真:宮脇広久】
元ヤクルト・上田剛史氏、大武優斗さん、謝敷正吾氏(後列左から)【写真:宮脇広久】

オープンハウスグループは元球児の社長個人でも支援

 不動産業の「オープンハウスグループ」は、昨年に史上最年少3冠王に輝いたヤクルト・村上宗隆内野手の偉業を称え、3億円の家を贈呈したことで知られる。今回は「あの夏を取り戻せ」の取り組みを知った荒井正昭社長が、自身も元球児であることから、会社のみならず個人の立場でも、資金面をはじめ大会実現へ向けて全面的に支援することを即決したそうだ。

 この日の記者発表会には、同社の社員で、大阪桐蔭高、明大、BCリーグ・石川時代に強打の内野手として活躍していた謝敷(しゃしき)正吾氏が出席した。謝敷氏や元ヤクルト外野手、上田剛史氏が大会アンバサダーに就任することも合わせて発表された。上田氏は「2020年当時の高校球児たちの悲しい映像は、僕の目に焼き付いています。このプロジェクトを知った時から、何か力になれないかと思っていました」と語った。

 この大会は、“悲劇の世代”の元球児の1人である大武さんが学生ボランティアによる実行委員会を立ち上げ、ゼロから仲間や企業などの協力を集めてきた。今月29日には甲子園球場で各出場チーム5分ずつのシートノック、入場行進、特別試合2試合などが行われ、翌30日と12月1日には兵庫県内の球場に分かれて交流試合を戦う。

 X(旧ツイッター)に「#好支援ぞくぞく」を付けて投稿すると、大会の特別ページに表示され、元球児たちに声援が届くSNS応援プロジェクトも発足した。現地での観戦は無料で、「スカパー!」でも全試合が無料放送、無料配信される。徐々に本番ムードが高まってきた。

【あの夏を取り戻せ! クラウドファンディングはこちら】
https://ubgoe.com/projects/444/

【SNS応援プロジェクト特設ページはこちら】
https://openhouse-group.co.jp/pr/lp/remember2020/

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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