驚異の打率.625…両親ロシア出身の“超逸材” スカウト絶賛、名門も怯えた専用シフト

豊川のモイセエフ・ニキータ【写真:田中健】
豊川のモイセエフ・ニキータ【写真:田中健】

4点ビハインドでもチームメートに「これでいける」と思わせる適時二塁打

「第54回明治神宮大会」の高校の部で16日、愛知・豊川(東海地区代表)の左の大砲モイセエフ・ニキータ外野手が、鮮烈な“全国デビュー”を飾った。高知(四国地区代表)との初戦で、4点ビハインドの6回に反撃のノロシを上げる適時二塁打を放つなど、3打数1安打1犠飛2打点。チームは最終的に延長11回タイブレークの末、9-8で逆転サヨナラ勝ちしてベスト4に進出した。

 最初は、全国レベルの壁は厚いのかとも思わせた。「3番・中堅」で出場したモイセエフは、初回の第1打席では高知先発の右腕・辻井翔大投手に対し、初球からスライダーを3球続けられ脆くも3球三振。4回の第2打席も、敵失で出塁こそしたものの、スライダーにタイミングが全く合っていなかった。

 しかし、0-4で迎えた6回1死一、二塁の第3打席。その辻井のスライダーを狙った。カウント1-2と追い込まれながら、6球目のスライダーが真ん中高めに浮いたところを一閃。痛烈なライナーが右翼線ギリギリで弾み、適時二塁打となって1点を返した。

 モイセエフは「1、2打席目はスライダーに合っていなかったので、次の打席もスライダーが来ると思って待っていました」と事もなげ。長谷川裕記監督は「1打席目はボールになるスライダーを振らされて三振しましたが、2、3打席目にはちゃんと見送れていた。そういうところが彼の強みだと思います」と称え、「ニキータ(モイセエフ)に1本出たことで、1点入っただけでなく、チームに『これでいける』という感覚が生まれた」とうなずいた。2死後には、北田真心内野手(1年)の右前適時打でモイセエフも二塁から生還し、一気に1点差に迫った。

 その後、試合はシーソーゲームに。モイセエフは1点ビハインドの9回1死一、三塁の土壇場では、同点右犠飛を打ち上げた。「自分が(逆転サヨナラ3ランで)決めてやろうという気持ちがありました。うまくいかなかったけれど、最低限ランナーを返せて同点までいけたのでよかったと思います」と言ってのけた。

入学当時66キロ→計画的ビルドアップで82キロ

 そして最後の瞬間は、1点を追う延長11回2死二、三塁。2番の高橋賢捕手(2年)がカウント3-2から、センターオーバーの逆転サヨナラ2点二塁打を放つのを、モイセエフはネクストバッターズサークルで見ていた。長谷川監督はここでも「あちらも次のニキータと勝負したくないから(高橋への投球が)甘くなる。それでサヨナラヒットになったのだと思う。そういう面でも、ニキータの存在は大きいと思います」と指摘するのだった。

 モイセエフは両親ともロシア出身で、自身は愛知県生まれ。学校や寮では日本語、家庭ではロシア語を使い分けるバイリンガルである。高校入学当初は179センチ、66キロで線が細かった。長谷川監督は「当時から癖のないスイングで、力がつけば絶対にいいバッターになると思いました。本人も『プロに行きたい』と言って入学してきたので、だったら体をつくろうと、2人で話し合いながら体の改革に取り組んできました」と振り返る。

 1日3食に加え、補食、プロテイン摂取、筋力トレーニングなどを計画的に重ね、いまや180センチ、82キロにビルドアップされた。秋季東海大会では打率.625を誇り、決勝では相手の愛知・愛工大名電が外野を4人で守る“モイセエフ・シフト”を敷いたほどだった。

 地元球団でもある中日の清水昭信スカウトは「最大の魅力はバットコントロール。“投手目線”で見ると、非常に打ち取りにくい打者です。バットの軌道がきれいで、体もこの1年で大きくなった。伸びしろを感じます」と高く評価する。今大会のみならず、来春の選抜大会での甲子園デビューが、ますます楽しみになる。

(飯田航平 / Kohei Iida)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY