社会人野球では「楽しくなくなる」 中日で17年→軟式転向…あえて選んだ“茨の道”
中日一筋17年で昨オフに引退…平田良介氏は軟式野球に取り組んでいる
中日一筋17年間プレーし、通算1227試合出場で1046安打をマークした平田良介氏は昨年オフに現役引退した。社会人や独立リーグのチームからも声がかかったが、“新天地”として選んだのは「A factory(エースファクトリー)」という地元・大阪府で活動している軟式野球チームだった。
「家族で話し合って、年内にNPB12球団から声がかからなければ新しい次のステップに進むことを決めていたので、独立リーグとか社会人野球は選択肢にありませんでした。もちろん企業に入って野球をするのも1つの手だと思うんですが、上限が見えてしまうし、それだと野球が楽しくなくなるんじゃないかと思いました。安定した生活よりも、自分でなんとかしたかったんですよね。道を切り開いてみたいという風に思っていました」
引退を決断後、小学1年から中学1年まで同じチームでプレーした幼馴染の萬谷康平氏(元DeNA)に誘われて「A factory」に加入。解説などのメディア出演、講演、今年4月に開業した野球塾「平田アカデミー」での指導など、練習時間の確保ができないほど多忙の日々を送っているが、試合ともなれば、自宅がある愛知県から駆け付ける。
甲子園球場で1日に行われた軟式野球の頂上決戦「プライドジャパン甲子園大会」では、「valiente」(岡山)との準決勝に「1番・センター」で出場。昨年8月26日の阪神戦以来、462日ぶりに同球場で挑んだ一戦にフル出場を果たし、衰えを感じさせない力強いスイングを披露した。試合は0-0のまま終え、“じゃんけん”によって敗退が決定。しかし、ベンチへ引き上げる平田氏の表情は明るかった。
軟式挑戦で増えた指導者としての“引き出し”
「もちろん勝ち負けへのこだわりはあるんですけど、今のチームは楽しく野球をするメンバーなので、今までの野球とはちょっと違っています。プロの時は仕事でしたし、大袈裟かもしれないですけど命を懸けて、1打席に集中してプレーをしていました。でも軟式野球は、命は懸けないです。みんなで真剣に全力プレーで楽しむっていう感じですね。負けて悔しいですけど、じゃんけんで勝負が決まるのも楽しみの一つだと思います」
楽しいだけでなく、35歳にして軟式野球に向き合ったことで得られるものもあった。硬式球を打ち返すのとは違った感覚があるため中日在籍時と比べて、打撃フォームや守備のポジショニングに対する考え方などを変えている。
そのことが「小学6年生や中学3年生などの軟式球から(硬式球に)握り替える時期の子どもたちへの指導に役立つ」と語る。引退後に軟式を選んだからこそ気付けた違い。「平田アカデミー」では硬式球に悩む選手に寄り添い、「どうやったら遠くへ飛ばせるのか」などを伝授しているという。
仕事に、野球に、大忙しのようだ。現在のチームでつけている背番号「66」は「第2の人生ということで、プロで最後につけていた6番を加えました」と、今年からの新しい生活に対する覚悟が込められている。「軟式野球はほとんどの球場が無料開放されていると思うので、ぜひ、見に来てくれたらうれしいです」と呼びかけた。
(喜岡桜 / Sakura Kioka)