「怪我をしたら即引退」投げ続ける41歳 年俸3600万円でも…比嘉幹貴が明かす救援への覚悟
14年目を終えた41歳の比嘉は現状維持の3600万円でサイン
球界でこれだけ使い勝手のいい投手はいないだろう。ビハインド、ワンポイント、無死満塁での登板……。オリックスの比嘉幹貴投手は、与えられた登板機会で淡々と自らの仕事をこなす。Bクラスが常連だった“暗黒時代”も知る41歳の大ベテランは「もうこの年なので、怪我をしたら即引退。悔いを残さないために必死に過ごしている」と、オフ期間も体を動かし続けている。
比嘉にとって頭を抱える時期が今年もやってきた。シーズンの活躍を金額によって評価される契約更改交渉だ。今季は31試合に登板し2勝0敗、6ホールド、防御率2.25の成績を残したが現状維持の3600万円(金額は推定)でサイン。昨年を上回る登板数(30試合)、防御率(2.53)でも増額はなかった。
「選手である以上、(年俸の)ベースは上げたいですよ。リリーフは難しい立場。7、8、9回はもちろん評価されるが、僕たちのような立場の投手は評価されにくい部分もある。若い子も見てるので複雑な思いは正直ありますよ。ただ、この金額だからやらせてもらっているかもしれない。他球団だったらクビを切られている可能性もありますし」
プロ14年間での最高年俸は2015年の6000万円。前年の2014年は自己最多62試合に登板し7勝1敗、20ホールド、防御率は驚異の0.79をマークしリーグ2位の原動力となった。だが、翌2015年は右肩関節唇の手術を受け、8試合の登板に終わる。同年オフには減額制限を越える提示を受けるも「肩の怪我は投手として致命的。契約してもらえるだけでありがたい」と、球団への感謝を語っていた。
2018年に43試合に登板すると、以降6年間で201試合に登板するなど、不死鳥のごとく復活を果たした。絶体絶命のピンチの場面でも表情一つ変えず打者を抑える。昨年の日本シリーズでは5試合に登板し4イニングを1安打6奪三振、自責0と神がかり的な投球を見せたのは記憶に新しい。しかも、直近4年間は黒星なし。最年長の平野佳と共に精神的支柱を担い、数字には表れない貢献度も目を見張るものがある。
オフもトレーニング「40歳を過ぎて本当の意味で1年勝負。だからこそ後悔はしたくない」
一方で年俸は来年への期待値も含まれている。年齢的なことを考えると球団側としても、大幅昇給は難しい部分があるのも事実。それでも「困った時の比嘉」として、なりふり構わず腕を振り続けたベテランは、もう少し報われてもいいと思ってしまう。
ファンの思いも同じだ。昨年、今年と契約更改を終えるとSNS上では「評価が低すぎる」「どれだけ助けられているか」「リーグ3連覇、他球団なら5000万円は超える投手」など多くの声が上がった。ビハインドの展開で投げることも多く、周りからは「負け試合は誰でもできる。ベテランが投げる必要ないだろ?」と言われることもあるという。
「でも、僕の変なプライドなんですが……。勝っていようが負けていようが、例え10点差で負けていようが。1軍の舞台は晴れ舞台なんです。本音はもう少し、勝ち試合で投げたいですけど。また、40~50試合は投げたい。そうなるように首脳陣に信頼されるようにしないといけないですね」
長丁場のシーズンを終えても体を休ませることはない。契約更改を終えてからも球団施設のある大阪・舞洲を訪れトレーニングを行う。ウエートやキャッチボールなどで入念に体をチェックし、15年目のシーズンに向け準備を進めている。
「40歳を過ぎて、本当の意味で1年勝負。だからこそ、後悔はしたくない。僕も1度は150キロを投げてみたいと思ってるんですよ。今年も147キロが出た時があって『これいけるんじゃない』って。そういうタイプじゃないのは分かっているんですけどね。それは願望であり冗談。若手に負けない? それは僕も平野佳もよく言うのですが『知ったこっちゃない』です(笑)。若手であっても、そうじゃなくても誰にも負けない。それだけですよ」
比嘉はリーグ4連覇を目指すチームには必要不可欠な存在。誰にも有無を言わせない成績を残し、来年の契約交渉では満面の笑みでサインする姿を見たいものだ。
○著者プロフィール
橋本健吾(はしもと・けんご)
1984年6月、兵庫県生まれ。報徳学園時代は「2番・左翼」として2002年は選抜優勝を経験。立命大では準硬式野球部に入り主将、4年時には日本代表に選出される。製薬会社を経て報知新聞社に入社しアマ野球、オリックス、阪神を担当。2018年からFull-Countに所属。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)