仰天した戦力外3年後の“復帰オファー” 2度断るも…縁が生んだ前代未聞の転身

ソフトバンクのスカウトに就任した大本将吾氏(左)【写真:上杉あずさ】
ソフトバンクのスカウトに就任した大本将吾氏(左)【写真:上杉あずさ】

2020年にソフトバンクを戦力外になった大本将吾がアマスカウトに就任

 異例の転身だ。2020年まで育成選手としてプレーした大本将吾氏が、中四国担当アマスカウトとしてソフトバンクに復帰した。大本氏は2016年育成ドラフト1巡目で入団。2020年オフに戦力外通告を受け、その後は四国ILの愛媛でプレー。2022年シーズンを最後に現役を引退し、今季は前期終了時までチームのマネジャーとして働いていた。

 3年ぶりのソフトバンク復帰はちょっとした“縁”によって現実のものとなった。2年半過ごした愛媛球団を離れ、来年以降の道を模索していた大本氏の電話が鳴ったのは、11月のことだった。相手はソフトバンクの永井智浩編成育成本部長兼スカウト部長だった。受話器の向こうから聞こえたオファーに耳を疑った。

「スカウトに興味はないか?」

 驚くのも無理はない。「育成しか経験していないような元選手がスカウトだなんて聞いたことない」。大本氏は育成選手として4シーズンを過ごしただけで支配下の経験もない。ソフトバンクでは今年から育成選手の経験がある古澤勝吾氏がアマスカウトに就任したが、古澤氏はもともとドラフト3位で入団した支配下登録選手。育成としてのキャリアしかない元選手のスカウト就任は異例のことだ。

 ただ、驚き以上に大好きだった古巣からのオファーが心から嬉しく、二つ返事で就任が決まった。スカウトは当然、球団の将来を担う若手を発掘してくる重要な役割だ。チームを去って3年が経った元育成の大本氏に、球団がその役割を託したのは、現役時代から見てきた人間性を買ってのことだと推察できる。

 愛媛を退団後、大本氏は野球以外の道も含め、次の身の振り方を考えていた。どこかで会社員として働く未来を思い描き「仕事帰りにプロ野球を観に行くのもいいな」と考えたりもした。ただ、どうしても頭の片隅には“福岡”があった。「福岡に戻りたい」。それが正直な思いだった。

福岡に戻りたい…思いを伝えていた「兄貴分」

 進路に悩んでいた大本氏はある人物に電話を掛けた。現役時代から「コーチであり、面倒見の良い兄貴分です」と慕っている吉本亮打撃コーチ(来季は2軍打撃コーチ)だった。現役時代、厳しさと愛情を持って接してくれていた存在。退団後も気に掛けてもらっており、節目ごとに大本氏は吉本コーチに必ず報告の連絡をしていた。

 今回も吉本コーチに相談する中で“福岡に戻りたい”という思いを伝え、吉本コーチが球団にかけ合ってくれたという。正直、ホークスで働けるとは思っていなかった。戦力外通告を受けた際、そして2022年オフと、2度も提案されていた球団職員としてのオファーを断っていたからだ。「ただの元育成選手が2度も断ってしまったので、もうホークスで働くのは無理だろう」。諦めかけていたところに降ってきたのが、まさかのスカウトの仕事だった。

 スカウトの仕事が決して簡単なものではないことは理解している。球団からは「スカウトのノウハウはこれから教えていくから大丈夫」と言われ「自分でよければ、やらせて頂きたいです」と力強く答えた。驚きや不安以上に、古巣からのオファーだったのが何よりの決め手。任される地区が地元の愛媛、かつ今年まで在籍した四国ILを含む中四国ということに運命も感じた。

 大本氏は吉本コーチ、そして同じく退団後もかわいがってくれていた高波文一3軍外野守備走塁コーチにいち早く報告をした。仲が良かった古澤アマスカウトの存在も心強かった。両親も新たな挑戦を応援している。退団後も変わらず、ホークスファンだった大本一家。息子が退団しても、両親はソフトバンクの試合をチェックしており、今回のスカウト就任をすごく喜んでくれているという。

 たくさんの縁とタイミングが重なり、大本氏の新たな人生が始まる。先輩スカウトの山本省吾スカウティングスーパーバイザーからは「スカウトってウエディングプランナーみたいな、人を幸せにする仕事。その子の幸せを考えてあげられるように」と愛情たっぷりの助言も貰った。大好きなソフトバンクと未来の鷹戦士のため――。感謝する縁を今度はつないでいく番だ。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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