「それだけしたら抑えられる」 6勝無敗…育成出身の東晃平を覚醒させた指揮官の一言

オリックス・東晃平(左)と中嶋聡監督【写真:荒川祐史】
オリックス・東晃平(左)と中嶋聡監督【写真:荒川祐史】

さらなる飛躍を誓うオリックス・東晃平「1年間ローテを守って2桁勝利を」

 躍進に導いたのは、指揮官の一言だった。オリックスの東晃平投手の胸には、中嶋聡監督からの言葉が残っている。「(監督と)普段そんなに多くは喋らないんですけど、1軍に上がる前に『インコースだけしっかり投げろ。それだけしたら抑えられるから』と言って頂きました」。育成出身の右腕は自信を深めた。

 東は2017年育成ドラフト2位でオリックスに入団。周囲の選手と比べると下積み生活が長かったが「自分は自分なので。あんまり気にせずやっていくしかなかったです」と丁寧な言葉を紡ぐ。

 プロ6年目の2023年は10試合に登板して6勝0敗、防御率2.06の成績を残し、3連覇に貢献。阪神との日本シリーズ第3戦(甲子園)でも5回1失点の投球で勝ち星を掴んだ。中嶋監督が2軍監督時代から目をかけてきた“逸材”が開花した1年だった。 

 飛躍の1年を振り返ると「監督から難しいことは言われなかったので、そこ(内角)だけ意識して投げました。あの言葉は自分の中でも心に残ってます」とにっこりと微笑む。目を細める理由は、確かに掴んだ手応えがあるからだった。

「最初は自信がそんなにある球種ではなかったのですが、ツーシームが良いと言ってもらえました。(バッテリーを組む)健矢さん(若月)さんとも話して。今年のオフはツーシームを極める方向で練習していこうかなと思っています」

武器のツーシームとの出会いは“遊び心”

 今では武器となったツーシームとの出会いは“遊び心”だった。「最初は遊びの感じで2年前くらいに投げてみたんです。ストレートも勝手にシュート(回転)していたので『もう、いいかな……』と思ってツーシームは投げていなかったんですけどね。投げていくにつれて安定もしてきました。変化量もシンカーっぽくなったり。その時に『使えそうだな』としっくりきた感じです」。リラックスした腕の振りが、しなやかさを増している。

 今季は“無敗”の6勝を記録したが「勝ち星は運の要素が結構大きいので。調子が良くない試合を、(マウンドで)いかに良くするかといったところ。変化球の精度をもう1段階上げないと厳しくなる」と慢心はない。

「最初はあまり自信もない方でした。『本当に勝てるのかな?』という感じだったんですが、3勝、4勝と続けていくうちに自信になってきました。そのおかげで堂々としたピッチングができるようになってきました。考えすぎずに投げることで、荒々しさも出てきたので、より一層良くなったのかなと思います」

 今オフにはエースの山本由伸投手がポスティングシステムを利用してドジャースへ、左腕の山崎福也投手が国内FA権を行使して日本ハムに移籍した。当然、東にかかる期待は大きくなる。「まずは先発ローテーションにしっかり入って、1年間ローテを守って2桁勝利を頑張りたいです」。質の良い素材が絶えまぬ努力を重ね、ベールを脱ぐ。とっておきのスパイスは、ずっと見てくれていた指揮官からの一言だった。

○真柴健(ましば・けん)1994年8月、大阪府生まれ。京都産業大学卒業後の2017年に日刊スポーツ新聞社へ入社。3年間の阪神担当を経て、2020年からオリックス担当。オリックス勝利の瞬間に「おりほーツイート」するのが、ちまたで話題に。担当3年間で最下位、リーグ優勝、悲願の日本一を見届け、新聞記者の卒業を決意。2023年2月からFull-Count編集部へ。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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