新人王資格よりもプロ初勝利 苦悩を越えた曽谷龍平“7度目の正直”で…葛藤との別れ

オリックス・曽谷龍平【写真:真柴健】
オリックス・曽谷龍平【写真:真柴健】

昨季プロ初勝利のオリックス・曽谷龍平「負けず嫌い」

 勲章の資格を失うことに未練はなかった。オリックスの曽谷龍平投手は、意を決して2023年のレギュラーシーズン最終戦となる10月9日ソフトバンク戦(京セラドーム)の先発マウンドに向かった。曽谷にとって、プロ10試合目の登板で7度目の先発機会だった。過去9試合の登板は0勝2敗。投球イニングは26回2/3で、新人王資格(支配下登録5年以内、投手では30イニング)の喪失まで、残り3回1/3に迫っていた。

 新人王の資格がなくなる可能性を知ったのは、試合当日。1学年上の野口智哉内野手から教えてもらった。一生に1度しか受賞できない「新人王」だが、その時の曽谷が欲しいものは「プロ初勝利」しかなかった。

 新人左腕の曽谷は、4月に救援でプロ初登板し、自身4試合目(6月7日、日本ハム戦)から先発マウンドを託された。何度も立ち向かうも白星は遠く、プロの壁の厚さを感じる日々を送ったが、9試合目(9月25日、西武戦)では、初勝利をつかむチャンスがあった。

 初回2死一、三塁のピンチを凌ぎ、3回までは無失点投球を見せた。打線の援護もあり、3回終了時点でチームは2-0とリード。ただ、ここからが粘りきれなかった。4回、先頭の栗山から3者連続四球を与えてピンチを招き、2-3と逆転を許し5回で降板。チームは逆転勝ちしたが、勝ち星はつかず。平井正史投手コーチに声を掛けられ、ベンチで涙を浮かべた。

 悔しさを堪えきれず「負けず嫌い。すぐにリセットしたいタイプなので、辛いことも1日でしっかりと忘れようと切り替えます」と自己分析する。それだけに、シーズン最終戦で巡って来た“最後のチャンス”を逃すわけにはいかなかった。

“逃した”ヒーローインタビューを今季こそ

 新人王資格の喪失まで残り3回1/3だったため、4回までに降板すれば2024年に新人王を獲得する可能性が残された。ただ、5回を待たずしてマウンドを降りると、喉から手が出るほど欲しい初勝利を逃すことにつながる。何としても5回以上を投げ切り、打線の援護を待つ必要があった。

 気持ちを込めた投球で、ソフトバンク打線に対し、6回を80球、1安打無失点。二塁を踏ませない投球を披露し「7度目の正直」でプロ初勝利を手にした。「あの試合はシーズンで1番のピッチングができました」と笑顔を見せた反面、「苦しいことばかりで、うまくいかないことの方が多かったので、最後に勝てたことはよかったと思います。(即戦力で)期待に応えなければいけないと、自分の中でレッテルを貼ってしまっていた部分もありました」と勝てない日々の心情を吐露した。

 ドラフト1位のプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも「自分を信じて日々練習して来ました。継続力が1番よかったと思います」と振り返る。「折れない心というか、周りに流されないこと」を信念に掲げ、「折れそうになったこともありましたが、そこで折れたら野球人生は終わりだと思うので」と、必死に耐えた10試合だった。

 念願の初勝利を挙げることができたが、心残りもあった。本拠地で迎えた最終戦。試合後にセレモニーがあったため、ヒーローインタビューが予定されていなかった。「(お立ち台が)あると思っていたんですが……」と少し残念そうな表情を見せた23歳。「1年目は1軍と2軍を行ったり来たりしていました。(2024年は)1年を通して1軍で完走したいと思います」。土壇場で挙げた勝利を自信に、2年目の飛躍を誓う。その時こそ、ヒーローインタビューで胸を張るつもりだ。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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