「もう終わった…」から描いた“成長曲線” 中川圭太が苦境で見つけた「新しい自分」

オリックス・中川圭太【写真:北野正樹】
オリックス・中川圭太【写真:北野正樹】

オリックス・中川圭太に芽生えた「とにかく打球スピードを上げる」意識

 発見した「新しい自分」が可能性を見出してくれた。オリックスの中川圭太内野手が、昨季に掴んだ打撃イメージで全試合出場など、プロ6年目でのキャリアハイを目指す。「(昨季)1年間を通して1軍にいたのは初めて。いろんなことを経験して新しい感覚を掴んだ、今後に生かせるシーズンでした」。飛躍のきっかけとなった「1年」を静かに振り返った。

 2023年は「1番から9番まで」全ての打順で先発出場し、内外野を守って2年連続で規定打席に到達。自己最多の135試合出場、12本塁打、55打点を記録できた秘密は「意識の変化」だという。

「野球を始めてからずっと、ピッチャーに対してどの方向に打とうと決めて、その中で対応してうまくコンタクトをしていくっていう感じでやってきました。でも、昨季後半から『とにかく打球スピードを上げること』を意識すると、本塁打が増えて打率も上がってきました。ちょっとイメージを変えたら、新しい感覚が出始めたので、それもアリなのかなと」

 巧みなバットコントロールでボールをさばき、2019年には新人選手として史上初の「交流戦首位打者に」輝いた。そんな好打者が長距離砲としての活路を開いたのは、球団データ班からのアドバイスだった。

「(昨季)夏頃、どのポイントで打てば打球速度が速いとか、いろいろ話をしながらデータを出してもらいました。バットの軌道も関係しますが、まずそのポイントを作った上で、バットをどう出していくか。同じポイントでも、上からをイメージしたり、下からとかレベル(水平)とかをイメージしたり。その日によっても違います。そういうことをいろいろ考えながらやってきました。(成績が伸びたのは)データ班のおかげですね」

迎えるプロ6年目に「新しく進化していければ」

 昨季途中、打率.230ほどまで“下降”してしまったことが、データ班に相談するきっかけだった。「簡単に言うと、2桁本塁打を打ちたかったんです」。笑顔で振り返るが、当時は本気だった。

 その思いが昨年8月6日の西武戦(ベルーナドーム)で結実する。「4番」に座ると1-0の4回、西武・宮川の直球をレフトへ8号ソロ。6回2死一塁からは青山の直球を弾き返し、センターへ自己最多となる9号2ラン。2022年9月の敵地・西武戦以来、プロ2度目の1試合2本塁打を記録した。森友哉捕手や杉本裕太郎外野手を故障で欠く打線だっただけに、値千金の一撃となった。

「打率が.230くらいまで落ちて『もう、終わったかな……』と思ったんです。ベルーナから本塁打を狙おうと思っていたら2本も打てて、そこから本塁打が増え出したんです」。打撃のイメージを変えることで、本塁打は12本まで量産し、打率も最終的にはリーグ9位の.269まで引き上げた。まさに相乗効果だった。

 打球速度を上げるため、今オフは筋力アップに取り組んだ。ただ、基本は「感覚」だという。「どういうイメージで打てば、感覚よく打てるかを考えています。『こう打ったら』とか考え過ぎちゃうと、多分(頭が)ごっちゃになると思うんで、やっぱり自分の感覚ですね。形だけにこだわると自分の感覚がなくなるので、まずは『感覚ありき』で、そういうものをいろいろ探しながらやっています」。

 迎えるプロ6年目。中堅選手としての自覚も芽生えてきた。「シーズンに入るといろんな体の状態もありますし、昨季と同じ感覚でやって同じように打てるかどうかは、まだ分かりません。そういう意味で、新しく進化していければいいなと思っています」。虚心坦懐、新たな挑戦が始まる。

◯北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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