「私の知識、指導が全て正解ではない」 ソフト界の“大谷翔平”がNPB戦士を求めた理由

レインボーストークスの松田光監督(左)と、臨時コーチを務めた坂口智隆氏【写真:橋本健吾】
レインボーストークスの松田光監督(左)と、臨時コーチを務めた坂口智隆氏【写真:橋本健吾】

ソフトボール界の“レジェンド”松田光監督「チャンスがあれば生かさないと」

 プロ野球が春季キャンプで盛り上がる中、女子ソフトボールの最上位に位置づけされる「JDリーグ」も4月の開幕に向け準備を進めている。兵庫を本拠地とする「シオノギレインボーストークス兵庫(以下レインボーストークス)」は新たな試みをスタート。最多安打、4度のゴールデン・グラブ賞を獲得した元ヤクルトで“最後の近鉄戦士”の坂口智隆氏を宮崎・串間キャンプの臨時コーチとして招集した。

 元NPB戦士を指導者として招いたのはレインボーストークスの松田光監督。現役時代は男子ソフトの平林金属に所属し、ドジャース・大谷翔平に匹敵する投打の二刀流として活躍。日本リーグで6度のMVP、2度の最優秀防御率、5度の最多勝利、首位打者、5度の本塁打王に打点王とタイトルを総なめ。日本代表としても2019年の世界選手権で準優勝に導き、年間最優秀選手に選出された。

 ソフトボール界では誰もが知る“レジェンド”は2022年に現役を引退し、昨年からレインボーストークスの監督に就任。同チームの取材に訪れた坂口氏とはその後も交流を持ち、ソフトボールへの熱い思いに感銘を受け臨時コーチのオファーを出した。

「ソフトと野球は別物かもしれないが、投げて打っては一緒。プロ野球でトップ技術を持つ坂口さんが間近にいる。そのチャンスがあれば生かさないと勿体ない。今年のキャンプでは打撃、守備を含め選手には全てを吸収してほしかった」

坂口氏が臨時コーチを務めた濃厚な3日間「打席や守備の考え方一つで大きく変わる可能性」

 自身も投手、打者としてトップクラスの実績、実力を持っているが、なぜ別競技ともいえるプロ野球選手の力を求めたのか。そこには指導者としての柔軟な考えを持つ指揮官の持論があった。昨年、1年を通じ初めて女子選手への指導を行うことで気づきが生まれたという。

「男子と比べると女子の選手は良くも悪くも真面目。思ったことが言えなかったりする部分がある。私の知識、指導が全て正解かと言えばそれは違う。一般的に知識は多ければ多いほどいいが、知識先行が合わない選手もいる。色々な知識を知ってもらって合うものを選んでもらう。たくさんの引き出しを持ってもらうのが狙いです」

 宮崎・串間市で行われた春季キャンプ。坂口氏は3日間の滞在で自身の知識、技術を惜しみなく伝えた。一人一人に寄り添い、悩みを抱える選手には「まずはマイナスの考えは無くそう。自分が思っている以上にポテンシャルはあるよ。小さくまとまる必要はない」とアドバイスを送った。

 昨年、レインボーストークスは西地区リーグ4位に終わり、あと一歩のところでプレーオフ進出を逃している。負けられない一戦で星を落とすなど、勝負どころでの弱さを露呈。現地観戦を含め全29試合を見届けた坂口氏も「個々の能力を見ればもっと勝てるチーム。打席や守備の考え方一つで大きく変わる可能性はある」と、更なる成長に期待を込めている。

 ソフトボールと野球がタッグを組み、今シーズンへ向け濃厚な3日間を過ごしたレインボーストークス。松田監督は「坂口さんは選手との距離をどんどん詰め、素晴らしい環境を作ってくれた。本当に貴重な時間を過ごし刺激をもらいました。選手も新しい感覚を得たと思います。やるからには優勝。目指す力はついた」と、手応えを感じている様子。

 女子ソフトボールは2028年・ロサンゼルス五輪での採用が決まっている。将来の五輪戦士を生み出すため、今後もリーグが一枚岩となり様々なチャレンジを続けていく。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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