異国で掴んだ“魔球”の手応え 能見篤史もイチオシ…覚醒狙う前佑囲斗、決意の金髪
能見篤史も“イチオシ”の前佑囲斗…が習得したフォーク
「負けない男」と呼ばれるメジャー経験者の一言が、オリックス・前佑囲斗投手の新境地を開いた。今オフに球団から派遣された豪州ウインターリーグでの出来事だった。メンバーに加えてもらったメルボルン・エイシズの投手コーチから「フォークは顔の前でボールを離すくらいが良いんだよ」と声を掛けてもらった。それまで「フォークは真っすぐに近い投げ方で、たたきつけないで上からボールを離すという意識で投げていた」と言う前にとって、新しい感覚だった。
ゲームで試してみると面白いようにボールが落ち、打者の反応も良かった。「最後はフォークを投げたら三振が取れるというところまで自信がつきました」と笑顔で振り返る。ウインターリーグでは、10試合に登板し、3勝無敗、防御率2.84。12回2/3で12奪三振と成果は数字に表れた。
“伝授”してくれたコーチの名前はピーター・モイラン。豪州出身のメジャーリーガーで、ブレーブスなどで右のサイドハンドとして通算499試合に登板し、2011年~2018年までの208試合で連続負けなしの記録を作った伝説の投手だ。キャッチボールの相手も務めてくれ「遠投での投げ方が1番良いよ」など、新しい視点のアドバイスをしてくれた。
フォークの習得は、前の悲願だった。ストレート、スライダーは打者に通用するが、自信を持って投げることができる「落ちるボール」がなかった。2023年6月のDeNA戦で初めて1軍マウンドに立って痛感したのが球種の少なさだった。
先頭の牧を三ゴロ、続く宮崎も左飛。2死からソトは歩かせたものの、大和を三邪飛に仕留め、1回を無安打無失点に抑えた。ただ、「1軍に上がって思ったのは、変化球が曲がり球しかないことでした。これからいろんな打者と対戦していく中で、落ちる球が有効になってくると思っていました」と振り返る。
帰国当日に“決意”の金髪に「気持ちを高めてやっていきます」
決め球を身に付けたことで、課題としてきた制球力も向上してきた。「豪州でも四球は何個かありましたが、(コースを)狙った結果の納得のいく四球でした。今まではフルカウントになって四球を出したくないという気持ちが強かったのですが、3-2からでもストライクが投げられるようになりました」と、相乗効果に胸を張る。
前は三重・津田学園での3年時に春夏連続して甲子園に出場。夏の大会、静岡高戦では9回1失点、11三振を奪うなどの活躍で、佐々木朗希(ロッテ)、奥川恭伸(ヤクルト)、宮城大弥(オリックス)らと「第28回WBSC U-18(韓国)」に出場し、オリックスへ2019年ドラフト4位で入団した。昨季まで1軍登板はなかったが、2022年末には、ラジオ番組で能見篤史さんから2023年に期待する選手として「前は出てくると思います。本人にもずっと言ってるんですよ。みんなが持っていないようなスライダーを持っていますし、投げ方がちょっと変わったら劇的に変わります」と名前を挙げられたこともある。
「去年、1軍を(2試合)経験したことが大きいと思います。これまでは(1軍で)通用するのかという不安がありましたが、1軍への一歩を踏み出せました。勝負の年。気持ちを高めてやっていきます」。昨年末、帰国した日、金髪に染めた。それまで赤茶系の髪色にしていたが「豪州で明るい髪色がすごくうらやましくて。カッコいい明るい色が似合うようになりたいですね」。投球だけでなく外見もイメージチェンジ。1年遅れの「NEXTブレーク」で、佐々木や宮城に追い付きたい。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)