涙も出ず絶望「明日、仕事がない」 茫然自失…メンタルが崩壊した“戦力外通告”の現実

元広島・小松剛さん【写真:本人提供】
元広島・小松剛さん【写真:本人提供】

元広島投手の小松剛さんはプロ5年目を終えて戦力外通告を受けた

 元広島投手の小松剛さんは、育成選手となったプロ5年目に、派遣選手として四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでプレーした。9勝を挙げて優勝に貢献して復活を印象付け、翌年への希望を膨らませていた。そんなときに受けた戦力外通告。「本当にショックでした」と絶望に突き落とされた。

 徳島での自身の投球には、それなりに自信を持っていた。1軍マウンドはプロ2年目の5月から遠ざかっていたが「元々、実戦経験をもう1回積んで帰ってこいみたな感じだったので。それで言うとちゃんと投げられるようになっていたし、ある程度自分をコントロールすることもできて結果も付いてきていたので、もう一度カープのユニホームを着られると思っていました」。

 独立リーグでは、最初は邪魔していたプライドも捨て、過酷な環境も受け入れて順応した。もちろん、すでに大卒で5年を過ごして結果を残せていない現実に、戦力外の予感が全くなかったわけではない。それでも「派遣して終わりってことはないだろうという安易な考えが僕にはあった」というのもまた事実だろう。

 実際に通告を受けたときには、不思議と涙も出なかった。

「呆然ですね。頭が真っ白ってこのことを言うんだなと。本当にショックだったというか、何を信じればいいんだとメンタル的には崩壊していました。もう明日、仕事がない。選手契約が終わった、戦力外になったという事実はショックすぎました」

激動だったプロ生活「5年間って短いけど、どの選手よりも大きな振れ幅」

 同時に、球団職員としての打診をもらった。現役続行を目指すか、引退するか……。悩んでいたあるとき、恩人のような存在から「向こう5年間、1軍で活躍できるのか。ましてやカープではない別の球団で1軍マウンドに立ち続ける姿を想像できるのか」と問われ、「できます」と答えることができなかった。「大体の人は『やれるなら頑張れよ』みたいなことを言ってくれるんですが、これが忌憚なき意見かと。現実を伝えてくれたので刺さりましたね」。スッと心のつかえがとれた小松さんは、カープへの恩返しを選び、ユニホームを脱いだ。

 現役生活は5年。結局1軍登板は30試合にとどまった。その日々を「激動」と表す。「いきなり1軍でバッと行って、2軍、3軍にも行って、派遣選手にまでなった。5年間って短いですけど、経験した幅で言うとどの選手よりも大きな振れ幅を経験しているなと思っています。だから色々な人の、選手の気持ちが分かる。本当に色々な経験をさせてもらいましたね」と振り返ったように、決して順調ではなかった日々が、その後の裏方業や、現在働く総合人材サービス「パーソルグループ」での営業職にもしっかりと活きている。

(町田利衣 / Rie Machida)

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