兄からの刺激に「僕にも余裕はありません」 宜保翔が背中に「S」を増やしたワケ
オリックス・宜保翔、兄からの刺激に「プロで5年間、過ごしていますからね」
夢の実現は近付いてきたが、負けるわけにはいかない。オリックスの宜保翔内野手は、今季からNPBに参入した「くふうハヤテベンチャーズ静岡」に入団した兄の存在に刺激を受けている。「僕もプロで5年間、過ごしていますからね」。普段はクールな宜保が、珍しくプライドをむき出しにしたのは、1歳上の兄、宜保優内野手の話に及んだ時だった。
宜保は沖縄・豊見城市出身。KBC未来学園沖縄高で投手として春の県大会決勝で興南を完封して初優勝に導き、2018年ドラフト5位でオリックスに入団した。対して、兄の優は県立那覇高から九州共立大に進学。その後はBCリーグ栃木ゴールデンブレーブスを経て、今季からウエスタン・リーグで戦う「くふうハヤテ」でプレーし、プロの世界にまた近づいた。
瞬発力がある宜保は、しぶとい打撃に加え広い守備範囲で「パーソル パ・リーグTV」公式YouTubeで「猛牛忍者」と評されるほどの身体能力を持つ。一方、兄の優は「瞬発力もパワーもあるし、フィジカル面では僕より強い」と翔が評価するほど能力が高いという。
高校時代は、互いの試合でのプレーを指摘し合っていたというが、今では帰省で会っても野球の話は全くしない。「仲が良いわけでもありません」と宜保は言うが、今オフの沖縄での自主トレに「一緒にやるか」と誘ったくらいだから、絆で結ばれている。
背ネームを「S.GIBO」に変更した深い理由
宜保は堅実な守備も買われ昨季、自己最多の62試合に出場。兄の優は、栃木での2年目の昨季、主に「3番・二塁」で出場し、打率.327、巨人3軍との試合で放った逆転3ランを含む3本塁打、28打点、13盗塁を記録し「くふうハヤテ」入りを果たした。
「ハヤテはウエスタンで戦いますから、独立リーグでプレーするよりプロ入りのチャンスはありますね。年齢的にも最後なのではないでしょうか」。冷静に分析する宜保は昨季から、ユニホームの背中の名前表示を「S.GIBO」に変えた。後輩の面倒見がいい若月健矢捕手の「文字間隔が狭く詰まった感じがするから『S.』を加えては」というアドバイスに従ったのだが、兄弟プロが誕生した場合、兄の「Y.GIBO」と区別するための事前準備の意味合いもあった。
オリックス2軍と「くふうハヤテ」は、3月15日のファーム開幕戦(ちゅ~るスタジアム清水)で対戦する。「プロになってくれたらいいなとは思いますが、僕にも余裕はありませんから、そんなに気にしてはいられません。ファームの試合では絶対に戦いたくありません」と1軍定着を掲げる宜保は言い切る。
今オフは陸上100メートルの沖縄記録を持ち「沖縄最速の男」と呼ばれる与那原良貴さんの指導を3週間受けて、野球の技術以上にフィジカル面を強化した。「測ってはいませんが足は速くなりましたし、スクワットも50キロも重く上げられるようになりました」。俊足巧打、華麗な守備をさらに磨き、兄弟プロ誕生の日を静かに待つ。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)