甲子園で異例の“木製バット”使用 自腹購入で経済的不安も「両親に感謝」

青森山田が京都国際に9回サヨナラ勝ちした
青森山田が京都国際に9回サヨナラ勝ちした

吉川は4打数2安打「1年生の時から練習では木製を使ってきました」

 第96回選抜高校野球大会は21日、第3試合で青森山田が京都国際に9回サヨナラ勝ちし、選抜初勝利(夏の甲子園では過去12勝)を挙げた。「5番・遊撃」で出場した吉川勇大内野手(3年)と「3番・中堅」の対馬陸翔外野手(3年)の2人は、全打席で木製バットを使用。背景には、今大会から金属バットに直径を短くするなど反発を抑えるための新基準が導入され、飛距離が落ちている実態がある。1974年に高校野球に金属バットが導入されて以降、甲子園で木のバットが使われるのは極めて異例だ。

 木のバットでも、新基準の“低反発金属”でも、芯でとらえればボールは飛んでいく。3-3の同点で迎えた9回、1死走者なしで、メイプル材の白木のバットを手にした吉川が右打席に入り、2球目のストレートを一閃。打球は中堅手の頭上を越えて三塁打となり、続く伊藤英司内野手(2年)の左前適時打でサヨナラのホームを駆け抜けた。

 吉川は初回の第1打席でも左前打を放ち、4打数2安打。今年から金属バットが新基準の低反発となるのを機に、「低反発バットは1度も試さずに」、木のバットに変えたという。「この先、高いレベルで野球をやりたいと考えているからです」と言い切り、「1年生の時から練習では木製を使ってきました。みんなが低反発バットで打っているのを見ると、自分としては木製の方が飛ばせるのかなと思っています」と説明した。

 高校を卒業すれば、プロはもちろん、大学も社会人も、使えるバットは木製のみ。高校時代に強打者として活躍していた選手が、上のカテゴリーに進んだ後、木製バットへの対応に苦労するケースも多い。根元や先端に当たっても飛距離が出る金属バットの優位性は、新基準導入で薄れた。それだけに、先々も野球を続けるなら、早くから木製を使う方がメリットが大きいと考えるのも納得できる。

 また、高校野球では滑り止めスプレーの使用が禁止されていて、木のバットとなると滑りやすくなるが、そこは「革製だった手袋を、滑りにくいゴム製に変えて」対応している。

1本1万5000円ほど…折れやすく経済的負担増で「親に感謝しながら使います」

「木製の方が振り抜ける感じがして、自分には合っていると思います」と吉川。「木製は芯に当てないと飛ばないので、打席での集中力が上がった気がします」とも付け加える。

 一方の対馬は、真ん中から先端方向が黒、グリップエンド方向が白のツートンカラーのメイプル製バットで臨んだが、4打数無安打に終わった。それでも「木製にしてから成績は上がっています」と迷いはない。対馬も「早くプロ野球選手になりたい」という思いが、木製バットへ向けて背中を押した。

 吉川と対馬のバットは、いずれも890グラム。吉川は「松本剛(日本ハム)モデル」、対馬は「鈴木誠也(カブス)モデル」だという。“木製愛好者”同士の会話もあるそうで、吉川は「感覚を言葉にするのは難しいですが、木製はこういう打ち方をするといいよね、というような話をしています」、対馬は「木のバットを使うことによって、試合で相手投手の攻め方が変わることがあるので、2人で話しながら対応しています」と明かす。

 そもそも、高校野球に金属バットが導入された理由は、木製バットが折れやすく経済的負担が大きいことにあった。吉川も対馬も、今大会に木製バットを10本ほど持ち込んでいるが、1本1万5000円ほどで全て“自腹”だ。吉川は「親に結果で恩返ししたい」、対馬も「両親に感謝しながら使っています」と胸の内を明かした。

 金属バットの新基準導入は図らずも、球児の間に多種多様な考え方を生んでいるようだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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