試合中止も…高野連の粋な計らい 被災地野球部が甲子園体験、胴上げ&校歌斉唱に歓喜

石川県能登地区の指導者、部員らが甲子園球場の施設やグラウンドを見学した
石川県能登地区の指導者、部員らが甲子園球場の施設やグラウンドを見学した

観戦予定の2試合が悪天候で順延も、日本高野連が粋な計らい

 第96回選抜高校野球大会は23日、開催予定だった3試合を天候不良のため翌24日に順延した。試合は実施されなかったが、能登半島地震で被災した石川県能登地区の指導者、部員らが甲子園球場の施設やグラウンドを見学した。

 能登地区の13校の指導者、部員ら178人は、23日に日本航空石川-常総学院(茨城)と八戸学院光星(青森)-星稜(石川)の2試合を観戦する予定だった。しかし天候不良で試合は順延に。日本高野連の計らいで、甲子園歴史館や球場施設、グラウンド内を見学することになった。

 能登地区では被災をきっかけに、「野球を辞めたい」と口にするようになった高校生がいるという。「“もう一度、野球しようぜ”という意味も込めて、日本航空石川を応援しに行こうという企画につながりました」と、石川県高野連の佐々木渉理事長は説明する。

 試合観戦はかなわなかったが、甲子園に足を踏み入れることができたのは、能登地区の球児たちにとって望外の喜びだった。球場内を見学し、普段テレビで見ていたインタビュールームを訪れると、「うわ、マジか! インタビューするところだ!」と興奮。仲間同士で擬似インタビューを行うなど、思い思いに楽しみ、自然と笑みが溢れた。

 雨が降る中、グラウンドに出る許可が下りると、高校ごとに円陣を組んで掛け声をかけたり、胴上げを行ったりした。校歌を歌う高校もあった。雨を気にするそぶりも見せず、限りある時間の中で存分に“聖地”を味わった。

震災で生まれた感謝の思い「野球ができることは当たり前じゃない」

 石川県立羽咋(はくい)工の岡羚音(れおん)主将は「野球のことすら考えられない状態でした」と震災当時の気持ちを明かし、「今は生きていることに感謝しています」と語る。そして「自分たちは震災で苦しい思いをしましたが、より甲子園に出たいという思いが強くなりました。野球ができることは当たり前じゃないので、より感謝をするようになりました」と胸の内を明かした。

 県立穴水(あなみず)の東野魁仁(かいし)主将は「穴水町にはまだ、水道が使えないところもあります。そんな中、このような体験をさせていただけて本当にうれしいです」と感謝した。

 佐々木理事長は「子どもたちの笑顔を見て、喜ぶ声を聞いて、本当にうれしく思います。次は、能登地区の野球部が自分たちの実力で甲子園の舞台に立つ姿を期待しています」とエールを送った。

 能登地区の野球部も、活動を再開し始めている。憧れの舞台を目に焼き付け、夏の目標を再確認した球児たちは、改めて野球への熱意が上がるはずだ。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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