親も顧問も大反対「やめといたほうが…」 中学水泳部から加入…“初心者”が叶えた甲子園の夢

敗れた阿南光ナイン(藤崎は右から4番目)【写真提供:産経新聞社】
敗れた阿南光ナイン(藤崎は右から4番目)【写真提供:産経新聞社】

阿南光の背番号19・藤崎は中学3年間は水泳部だった

 夢心地の10日間だった。第96回選抜高校野球大会に出場した阿南光(徳島)は28日、準々決勝で星稜(石川)に0-5で敗れた。背番号19の藤崎健(つよし)外野手(3年)は、中学時代の3年間は水泳部という異色の経歴の持ち主。努力が実ってベンチ入りし、憧れのグラウンドを噛み締めた。

 小学生の頃から野球が好きで、大の阪神ファン。試合中継は欠かさずチェックし、テレビ放送がない日はラジオを聞いて応援した。小学2年生から4年生の時まで軟式チームでプレーしたが、友達に誘われたこともあって以降は水泳に打ち込んだ。進路に悩んでいた中学3年の夏、甲子園に出場したのが阿南光だった。

「甲子園でプレーする先輩がめっちゃカッコよくて。阿南光に行けば、僕も甲子園にいけるんちゃうかなって」

 しかし、公立高校とはいえ、過去には甲子園に出場した歴史がある野球部。同い年には中学時代に全国大会での優勝経験がある吉岡暖投手(3年)、井坂琉星捕手(3年)などもいた。父の哲三(てつぞう)さんは、入部するという息子の決断にビックリ。「ちょっとやめとったほうがいいんちゃうかと思ったんですけどね。怪我するぞって言うたんですけどね」と話すが、藤崎は「野球をするって決めて阿南光に来たので」と曲げなかった。

仲間たちが「全く分からない僕に1個ずつ丁寧に教えてくれた」

 担任でもあった岩前涼也部長も「シンプルにビックリしましたね。この子は何を言っているんだろうって」と振り返る。「硬球は危険。初心者だったら危ないし、相当な強い覚悟を持ってもらわないといけない」。家族と部長は何度も話し合ったというが、藤崎の“野球への愛”は変わらなかった。

 小学生時代に少し野球に触れていたとはいえ、5年ものブランクがあり、ボールも硬式に変わる。「素人レベルだった」という自分を支えてくれたのは、チームメートだった。「同級生とか先輩たちが、全く分からない僕に1個ずつ丁寧に教えてくれたので、今があると思います」。

 プレーではチームメートに敵わないかもしれない。それでも、全力疾走に声出し、自分がやれることはすべてやった。岩前部長は「1回も練習を逃げたりしたようなことはないし、自分が与えられた役割を頑張れる子。上級生になってもその姿を続けてくれている」と、ベンチ入りの理由を語る。

 昨秋には背番号17を着けて初めてのベンチ入り。今大会では19を着けて一塁ランナーコーチを務めた。準々決勝を三塁アルプスから応援した哲三さんは「ちょっと信じられないですね。試合には出てないですけど、嬉しいです」と目を細めた。

 藤崎は「甲子園で校歌を2回も歌えて、このまま勝ち続けちゃうんじゃないかなと思っていました。僕からしたらめっちゃ幸せな時間だった」とうれしげ。試合には敗れたが、納得の表情で甲子園を後にした。

(上野明洸 / Akihiro Ueno)

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