不運すぎる1勝も…巨人24歳の“衝撃の1か月” 傑出した貢献度、魔球で築いた「8.72」
今年も安定感抜群の阪神投手陣、燕は打棒好調も中盤の失点率が課題
3月29日に開幕したプロ野球。スタートダッシュに成功した選手をデータで探り出し、3・4月の「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。
選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まずは3、4月のセ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
○阪神:15勝9敗3分
得点率3.33、打率.234、OPS.638、本塁打15
失点率2.57、先発防御率2.56、QS率70.4%、救援防御率1.13
○巨人:13勝12敗3分
得点率2.50、打率.227、OPS.604、本塁打11
失点率2.47、先発防御率2.28、QS率57.1%、救援防御率2.42
○中日:12勝12敗3分
得点率2.67、打率.237、OPS.592、本塁打12
失点率3.01、先発防御率2.77、QS率66.7%、救援防御率2.84
○広島:10勝11敗3分
得点率2.92、打率.232、OPS.605、本塁打10
失点率2.64、先発防御率2.74、QS率58.3%、救援防御率2.35
○ヤクルト:11勝14敗1分
得点率4.08、打率.257、OPS.683、本塁打17
失点率3.58、先発防御率3.72、QS率46.2%、救援防御率3.03
○DeNA:11勝14敗1分
得点率2.85、打率.240、OPS.614、本塁打8
失点率4.13、先発防御率3.77、QS率42.3%、救援防御率3.10
昨年、安定の投手力でペナントレースを勝ち抜いた阪神は今年も開幕から実力を発揮している。特にQS率70.4%、救援防御率1.13はリーグ1位だ。打線との噛み合わせもよく、月間で6つの勝ち越しとなり幸先の良いスタートとなった。
苦戦を強いられているのはヤクルトとDeNA。ヤクルトはリーグで唯一の得点率4点台を記録しており、主軸を中心に打線は機能しているが4回、5回、7回の失点率が30%を超えており、試合中盤で形成不利な状況となっている。DeNAはQS率がリーグ最低値となっており、先発が試合を作りきれていない状況だった。
燕・村上、オスナ、サンタナが安定の成績
そんなセ・リーグのセイバーメトリクスの指標による3・4月の月間MVP選出を試みる。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。セ・リーグ打者のwRAAランキングは以下の通りだった。
○村上宗隆(ヤクルト):wRAA10.69、116打席、OPS.912、打率.286、本塁打5
○岡本和真(巨人):wRAA10.15、118打席、OPS.898、打率.304、本塁打4
○サンタナ(ヤクルト):wRAA9.54、104打席、OPS.892、打率.348、本塁打2
○オスナ(ヤクルト):wRAA8.34、117打席、OPS.855、打率.303、本塁打5
○細川成也(中日):wRAA7.97、110打席、OPS.861、打率.291、本塁打6
○近本光司(阪神):wRAA6.73、122打席、OPS.765、打率.262、本塁打3
○宮崎敏郎(DeNA):wRAA6.60、96打席、OPS.798、打率.293、本塁打2
○森下翔太(阪神):wRAA6.34、109打席、OPS.820、打率.247、本塁打5
上記のランキングに掲載されていない球団のwRAA上位の選手は以下の通り。
○野間峻祥(広島):wRAA3.74、84打席、OPS.788、打率.304、本塁打0
例年に比べ全体的に打撃成績が伸びていない状況の中、主軸を担うスラッガーが安定の成績を収めている。最もチームに貢献したことを示している選手は村上だった。2022年の3冠王は、昨年4月はWBCの影響もあってか成績が伸び悩んだが、今季は月間OPS.912 でリーグ1位。wRAA3位にオスナ、4位にサンタナとヤクルトの主軸が上位をほぼ独占した。ヤクルト打線の核となり、得点力増強に大きく貢献している村上を月間MVP打撃部門に推薦する。
1勝止まりもチームに大きく貢献した戸郷
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りだった。
○戸郷翔征(巨人):RSAA4.80、登板5、イニング32、防御率1.97、WHIP1.00、奪三振率8.72、奪空振率21.2%、HQS率60%
○村上頌樹(阪神):RSAA3.85、登板5、イニング34、防御率1.06、WHIP0.94、奪三振率7.41、奪空振率20.9%、HQS率80%
○R.マルティネス(中日):RSAA3.72、登板12、イニング12、防御率0.00、WHIP0.42、奪三振率7.50、奪空振率34.6%
○バルドナード(巨人):RSAA3.63、登板13、イニング12回2/3、防御率0.00、WHIP0.87、奪三振率12.08、奪空振率28.8%
○清水達也(中日):RSAA3.34、登板11、イニング10回2/3、防御率0.00、WHIP0.75、奪三振率10.13、奪空振率29.4%
上記ランキングに掲載されていない球団のRSAA上位選手は以下の通り。
○黒原拓未(広島):RSAA2.26、登板7、イニング12回1/3、防御率1.46、WHIP0.89、奪三振率9.49、奪空振率27.0%
○小澤怜史(ヤクルト):RSAA1.96、登板4、イニング22、防御率2.45、WHIP1.27、奪三振率7.36、奪空振率16.1%
○東克樹(DeNA):RSAA1.40、登板5、イニング33、防御率2.73、WHIP1.18、奪三振率6.55、奪空振率18.2%、HQS率40%
最もチームに貢献した成績を残した投手は戸郷。今年の開幕投手ということもあり、対戦相手もエース級の投手となるため援護点に恵まれず、勝ち星は1勝止まりだったがHQS3試合を含むQS4試合、与四球4、K/BB7.75とコントロールの良さと安定感を示した。
決め球のフォークのキレもよく、奪三振率はリーグ規定投球回以上の投手で2位の8.72であり、20%以上の割合で空振りを取っている。以上よりセイバー指標で選ぶ3・4月の月間MVPに戸郷を推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。