19歳の涙に「何、泣いてんねん」 自身も経験したからこそ“激励”…曽谷龍平の温もり
オリックス・曽谷龍平「自分の中でレッテルを貼ってしまっていた」
遠回りしても、順調な今がある。オリックスの曽谷龍平投手はプロ1年目だった昨季、1軍戦7試合目の先発登板でプロ初勝利をマークした。「涙ですか? 無駄ではなかったと思います」。ピンと背筋を伸ばし、自信に満ち溢れた表情で言い切った。
奈良・斑鳩町出身の23歳。明桜、白鴎大から2022年ドラフト1位でオリックスに入団し、即戦力として期待されたが、苦しみ抜いた新人年だった。昨年4月に救援でプロ初登板し、自身4試合目の登板からは先発マウンドを託された。
ただ、プロの壁に何度も跳ね返された。昨年9月25日の西武戦は自身9試合目の登板。打線の援護もあり、プロ初勝利を掴むチャンスが訪れたが、4回に3者連続四球を与えるなどして逆転を許し、5回で降板。平井正史投手コーチに声を掛けられ、ベンチで涙を浮かべた。ようやく、プロ初勝利を掴んだのは自身10試合目となるレギュラーシーズン最終戦の10月9日・ソフトバンク戦だった。
先発登板“7度目の正直”で掴んだ白星。「期待に応えなければいけないと、自分の中でレッテルを貼ってしまっていた部分もありました」と勝てない日々を振り返った。
マウンドで泣いた後輩に“あえて”…「何、泣いてんねん」
今の曽谷から、苦しんだ1年目の姿は想像もできない。「最終戦の1勝で、一皮も二皮もむけた感じがします。元々、速かったストレートに強さが出てきました」とは、昨年の秋季キャンプでの厚澤和幸投手コーチの言葉。曽谷は今シーズンに入っても成長を続けている。
4月18日の楽天戦では5回2安打無失点の好投で今季初勝利。2勝目を挙げた5月6日の同カードでは7回2/3を106球で5安打2失点の投球を披露した。失敗から学んだことは大きいという。
「1、2軍を行ったり来たりして、いろんな経験ができたことがよかったと思います。これをやってはダメ、これはいいんだとわかるようになりました。調子の良い時にはより練習をします。良い感覚を忘れたくないので。良い時こそ練習をしようという意識は高くなりました」
後輩の姿を見て、胸中を察する。高卒2年目の19歳・齋藤響介投手が3月17日、ヤクルトとのオープン戦で降板後、ベンチで号泣する姿を球団施設のトレーニング室のテレビで見た。帰阪後、出会った齋藤に「何、泣いてんねん」と関西弁であえて茶化した。
自身も経験した触れられたくない出来事を、笑って吹き飛ばしたかった。「(大卒の)自分からみれば、まだ大学2年生。チームに対するプレッシャーを感じるべきではないですから」。目線を上げて言う。「やっぱり、近道はないと思います。いろんなことを経験してこその成功だと思います」。改めて自らに言い聞かせ、またマウンドに向かう。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)