過去の見直し図るMLB 不条理な差別是正…米最古の球場で公式戦開催する意義【マイ・メジャー・ノート】

1948年5月3日、ヤンキースタジアムで行われたニグロ・ナショナルリーグの開幕戦【写真:Getty Images】
1948年5月3日、ヤンキースタジアムで行われたニグロ・ナショナルリーグの開幕戦【写真:Getty Images】

米最古の球場リックウッド・フィールドで6月21日にMLB公式戦を実施する

 6月20日(日本時間21日)に、アラバマ州バーミンガムにある「リックウッド・フィールド」で初めてメジャーの公式戦が行われる。同球場の開場は1910(明治43)年8月18日。米国最古の球場は、かつてニグロリーグのブラック・バロンズの本拠地であったが、1947年にジャッキー・ロビンソンがメジャー初の黒人選手としてデビューすると、有能な黒人選手たちが流出。同リーグは消滅した。不条理な黒人選手排斥から立ち上がったニグロリーグの球場で、白人主義を標榜した負の歴史があるメジャーの一戦は非常に意義深いものとなる。【全2回の後編】

 近年の人種差別撤廃への風潮の高まりはメジャーリーグ機構(MLB)にも波及し、ロブ・マンフレッドコミッショナーは過去の差別是正に向け真摯な取り組みを続けてきた。ニグロリーグ創設から100年目となった2020年に、同コミッショナーは「遅すぎた認定」と認めたうえで、ニグロリーグの記録の統合方針を発表した。

 さらに遡って、2000年には米野球殿堂博物館に資金援助し、新聞や他の膨大な資料を渉猟してニグロリーグの記録を掘り起こすという一大プロジェクトを立ち上げた。数年を費やした調査に基づきニグロリーグから17選手を選出し、殿堂へと導いたのは2006年のことだった。

 そして、今年5月29日(同30日)、MLBはメジャーの記録にニグロリーグの記録を加算した歴代や単年記録など、新たな数字とそれを達成した選手を発表。

 MLBで長らく保たれてきた偉人たちの記録を一気に抜いたのが、ニグロリーグの強打者ジョシュ・ギブソンだ。通算打率(.372)で「球聖」と呼ばれたタイ・カッブ(.367)を、通算の長打率やOPS(=出塁率+長打率)でも「野球の神様」と呼ばれているベーブ・ルースを上回り、歴代トップに躍り出ている。

 MLBは、ニグロリーグの記録の見直しと並行してリックウッド・フィールドでの公式戦開催の準備を粛々と進めていた――。

「フィールド・オブ・ドリームス」を担当…マレー・クック氏が球場改修の陣頭指揮を執る

 一昨年の夏、野球映画「フィールド・オブ・ドリームス」のロケ地となったアイオワ州ダイヤーズビルで行われた鈴木誠也外野手が所属するカブスとレッズとの公式戦を取材した際に、開催地の関係者が遠回しに話していた。

「数年先にはアラバマあたりで古き良き時代の空気に触れることができますよ。多分ね」

 この頃にはバーミンガムが開催地になることは決まっていた。

 2021年秋、リックウッド・フィールドのオーナーだったアレン・ハーベイ・ウッドワードの遺志を継ぐ有志の会をまとめているジェラルド・ワトキンス氏に、MLBから電子メールの吉報が届く。同氏は「もちろんです!」と即答。歎願から2カ月後のことだった。

 リックウッド・フィールドが正式に決定すると、芝の張替はもちろんのこと、ダグアウトの拡張や内野席の防球ネットの設置、外野フェンスの防護パッド取り付けなどの改修工事が始まった。その中には、26メートル近くもあったホームベースからバックネットまでの距離を約6メートル短くする難儀なフィールドの構図修正もあった

 その陣頭指揮を取っているのが、アイオワのトウモロコシ畑を「フィールド・オブ・ドリームス」に仕立て上げたマレー・クック氏だ。今年3月にドジャース対パドレスの開幕シリーズが行われた韓国ソウルの高尺スカイドームも担当している。クック氏いわく、「アラバマも試合が終わるまでは安心できません」。万全な態勢で気を引き締めている。

持ち続けたい…ニグロリーガーたちの声なき声に耳を澄ます意識

 1988年にホワイトソックス傘下の2Aバーミンガム・バロンズが移転して以降、球場は主に地元のマイルズ・カレッジや企業チームが使用しているが、「リックウッド・クラシック」というマイナーリーグの公式戦が毎年1度開催され、選手がレトロなユニホームを着用してプレーしている。コロナ禍で中断していた同イベントは、今年6月18日に5年ぶりに行われる。

 メジャー球団のない南部の街で開催される、ニグロリーグへの表敬試合は大いに盛りあがることだろう。ただ、メジャーでのプレーが許されず憤懣(ふんまん)やるかたない思いで耐えつづけたニグロリーガーたちの声なき声に耳を澄ます意識はしっかりと持ちたい。

 後日、肌で感じたアメリカ野球の息吹に触れる現地ルポをお伝えする予定だ。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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