“ギータ2世”の知られざる逸話 周東以上の俊足、焼き肉は牛角…恩師が語る素顔
横浜商高時代の恩師である李剛さんが明かす、鷹・笹川の素顔
楽しみな若鷹が鮮烈なデビューを飾った。ソフトバンクの高卒4年目・笹川吉康外野手は11日のヤクルト戦で初めて1軍昇格を果たすと、14日の阪神戦でプロ初スタメン、初安打。2試合連続でスタメン起用された翌15日の同戦では特大のプロ初本塁打を放った。身長193センチ、体重95キロの体格に豪快なフルスイング、ストライドの大きな走り方……様々なところで柳田悠岐外野手の姿が重なる「ギータ2世」の素顔を恩師が明かしてくれた。
笹川の横浜商高時代に野球部の顧問を務めていた李剛さん(現・横浜市立大コーチ)は教え子の姿に目を細めた。「あのメンバーを見たら凄いじゃないですか。一流選手の中にいて、競争は激しいので、もっともっと吸収しなきゃいけないこともいっぱいあると思う。でも、あの中に入ってもやっぱりデカいし、吉康のポテンシャルは高い。でも、野球の技術を磨いていかないとホークスの中では不動のレギュラーになれないと思うので。そういうところを勉強してくれるといいなと思いますね」。
まだ22歳の笹川にとって、李さんは「Y校のお父さん」と慕う存在だ。常に愛情と厳しさを持って寄り添ってくれた恩師でもある。プロの世界に飛び込んで4年目となる今でも、日常的に連絡を取り合っている。李さんも笹川が出場するファームの試合を映像でチェックし、教え子の姿を見守り続けてきた。
「どうしても『ギータ2世』と言われるので、ホームランも意識すると思うんですけど、アイツは足もあるので。『50メートルを走ったら周東さんより僕の方が速いです』なんて自分で言っていたので(笑)。じゃあ、そっちでもアピールしろよって話もしていました」。その体格とフルスイング、そして抜きん出た飛距離が注目されるが、走力も“周東以上”。そんな笹川を李さんは叱咤激励してきた。
そんな笹川の素顔は、独特で豪快だ。李さんは笹川のプロ1年目、2021年1月のある日を振り返る。「4年前の入寮の日、ちゃんと制服着て行けって言ったのにジャージで行ったヤツですから……」。記念すべきプロとしての第一歩を踏み出す「若鷹寮」入寮の日。午前中に横浜商高に挨拶に訪れた笹川はジャージー姿だった。
「『今から行ってきます』って学校に来た時、下は制服だったんですけど、上は黒のジャージーを着ていたんですよ。『ちゃんと学ラン持ってるのか?』って聞いたら『バッグの中に入っています』って言うから『今日はマスコミとかも来るんだからちゃんと着て行けよ』って言ったんです。なのに、テレビで(入寮の様子を)見たら、ジャージーのまま。『初めて見たぞ、入寮の日にジャージーで行ったヤツ』って。そんなヤツです」
恩師が振り返る“青春”…「みんなに愛される、手のかかるヤツ」
今では笑い話だが、李さんの心配が後を絶たない破天荒な子だった。
「年末に一緒に食事に行った時も(横浜市内の)関内にジャージーで来ましたからね。『プロ野球選手なんだから、そういうところにお金使えよ』って言いましたけど、本当に変な贅沢とかしないみたいですね、福岡でも。事あるごとに話しているんですけど、本当に無駄遣いしない。だから、偉いなと思って」。そんな変わらない姿に李さんは安堵する。「焼肉は牛角がいいです」「食べ放題のサイドメニューが好き」という、おごることなく自然体なのが笹川の素顔だ。
1軍昇格が決まった時の行動にも、笹川の人柄が表れる。李さんは「今回も僕にも連絡してくれ、入団前からお世話してくれているSSKさんにもちゃんと連絡入れていました。SSKの担当者から僕に電話があって『ちゃんとこっちにも連絡くれて』なんていう話をしました。そういうところ、ちゃんとしているなと思います。そういう(お世話になった)人を邪険にしないというか……。そういう感覚、すごく大事だと思うので」と感心していた
笹川のことを「みんなに愛される、手のかかるヤツだった」と、愛情を込めて語ってくれた李さん。決して言葉にするのは得意ではないが、思いは強く、芯のある、心優しい性格だ。「ギータ2世」と期待される22歳の若鷹。心身ともに、チームを背負うポテンシャルを秘める選手だ。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)