覚醒を呼んだ首脳陣ローテ…1軍合流即「100%なんて無理」 奮起促した“外からの一言”

オリックス・高橋信二打撃コーチ【写真:北野正樹】
オリックス・高橋信二打撃コーチ【写真:北野正樹】

オリックス・高橋信二打撃コーチからの「心に響くワード」

 飾らない言葉が、選手たちを覚醒させた。交流戦途中から「打撃陣の奮起」で巻き返しを図ることができたオリックス。その影には、2軍担当の打撃コーチから1軍に“ローテーション”されたばかりの高橋信二打撃コーチからの「心に響くワード」があった。

「なにをみなさん、完璧にやろうとされるんですか? 100%なんて無理ですよね。できたことがこれだけあるのに、できなかったことや、試合に負けたことだけにフォーカスして、自分を苦しめて何が楽しいんですか。がんじがらめになっていませんか? 自分の能力を発揮できていないですよね。もっと楽しめますよね。楽しむためにはどうしたらいいのか。できることはありますよね!」

 1軍に合流した初日のミーティングで、高橋コーチは選手たちに静かに語り掛けた。「偉そうに聞こえたかもしれません。なんじゃ、コイツと思われたかもしれません。でも、何となく負けている理由や浮上できない理由はこういうことかとわかったので、話をさせていただきました」。胸に響いた選手もいる。

 オリックスは6日、1軍を担当していた小谷野栄一打撃コーチ、平井正史投手コーチと2軍を担当していた高橋コーチ、岸田護投手コーチの“ローテーション”を発表した。中嶋聡監督が就任した2021年から、監督を除いて1、2軍の担当を分けていない。1、2軍の情報を共有することで、チームの総合力をアップさせる狙いがあり、今年の春季キャンプでは高橋コーチが1軍主体のメイン球場で指導にあたっていた。このため、コーチ陣の入れ替えは「降格」や「昇格」という“暗い”イメージはない。

「やはり気持ちの面が大きかったんじゃないでしょうか。見えなきゃいけない、見なきゃいけないという部分がちょっと見えていなかったのかなと。良い部分に目を向けなきゃいけないのに、悪いところばかりに目が行き過ぎて、よかったところが疎かになっているように僕は強く思いました。1軍には僕のことを知らない選手が多かったのですが、ちょっと生意気にもズカズカと言わせてもらいました。僕はこういう人間です。飾る必要はないし、ベテランも若手も関係ありません」

「どちらを選ぶかは選手次第です。自分で選べるように、勇気を持たせてあげるのが仕事」

 高橋打撃コーチは津山工(岡山)から、俊足で強肩強打の捕手として1996年のドラフト7位で日本ハムに入団。プロ2年目の8月にヤンキース傘下のチームに留学し、のちに日本ハムの監督になるトレイ・ヒルマン氏の指導を受けた。

 プロ7年目、この年に就任したヒルマン監督に抜てきされ、レギュラーの座を掴むと、翌年はシーズン26本塁打を放ちオールスターにも初出場。2009年には打率.411で交流戦首位打者に輝き、ゴールデン・グラブ賞、ベストナインも獲得し、のちに巨人やオリックスでも勝負強い打者として活躍した。

 指導方法は至ってシンプルだ。2022年から就任したオリックスでは「練習の内容はすごく良かったよ。今日の試合の結果が悪くても全然構わないよ」と若い選手をリラックスさせる。打席に向かう選手には2つの方法を用意する。「どちらを選ぶかは選手次第です。『こうしなさい』ではなく、どちらを選ぶのか背中を押してあげる作業です。確率が高いと思う方を自分で選べるように、勇気を持たせてあげるのが仕事です。自分の価値観を押し付けることになりますから、アドバイスはしません」。

 この指導で前年に.216にとどまったチーム打率を2022年は.248まで引き上げ、本塁打も30本増やした。今回、高橋コーチが合流してからチームは10試合で6連勝を含む7勝3敗。この間のチーム打率は.283と上昇し、リーグ4連覇に向けて踏みとどまることができた。

 高橋コーチの言葉を、受け止めた選手たちがいる。交流戦で安打を量産した西川龍馬外野手は「外から見ていた人と、中で見ている人では見え方が違います。自分たちがそう感じていなくても、周りからはそう見えたかもしれないので。そこはみんないろいろと気付いたこともあったと思います。僕は、思い切りがなかったのかなと思いました。だからこそ、自分を信じて思い切ってやろうと思いました」と受け止めた。

 交流戦で打率.428と打撃絶好調だった西野真弘内野手は「僕らの心理状態を見て、的を射たことを言って下さったと思います。自分で自分を追い込んで、苦しい心理状態で試合に出ても難しいというのは、聞いていて納得できました。すごく心に響きましたね」と振り返る。さらに、2軍で高橋コーチと過ごす時間が長かった太田椋内野手は「僕はファームで話を聞いていたので驚きませんでしたが、心に刺さった1軍の選手の方たちは多かったのではないでしょうか」と明かす。

 高橋コーチは「まだ、あまり手応えは感じていません。(打率向上は)たまたまかもしれないし、これから徐々に効いてくるのかもしれない。即効性があるとは僕も感じていません」。ただ、打者たちの意識は“明らか”な変化が生まれ始めている。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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