トンネル越えて気づいた“本音” 山下舜平大が乗り越えた壁…「克服すれば成長できる」
オリックス・山下舜平大「成長するためにはこういう時期もあると思います」
暗闇を無心で突っ切った。オリックスの山下舜平大投手が、16日のヤクルト戦(京セラドーム)で約2か月ぶりの1軍マウンドに立った。「自分のやるべきことをやって、しっかりと準備してきました。だから、少しホッとしています」。初回は自身の四球や暴投が絡んで1点を失ったが、結果的に5回82球無安打1失点。安堵の表情でマウンドを降りた。
2020年ドラフト1位でオリックスに入団した長身の剛腕。プロ3年目の昨季は、開幕戦でプロ初登板初先発を任されるなど、16試合に登板して9勝3敗、防御率1.61でパ・リーグの新人王に輝いた。
さらなる飛躍を誓った今季だったが、壁にぶつかった。今季3試合目のマウンドだった4月19日のソフトバンク戦(京セラドーム)で先発するも、4回95球8安打8失点。ファームでの再調整が決まった。その後は1度、1軍練習に合流するも登板が“見送り”に。大阪・舞洲の球団施設には、朝から夜まで姿があった。
「時間をもらえたので、本当に感謝しています。もがいて課題も見つかった。最終的には『基礎基本』を見直す部分だなと思いました。体が大きい分、末端のズレが生まれてしまう。だけど、それを克服すれば成長できる。成長するためにはこういう時期もあると思います」
起床してすぐ、その日のトレーニングを紙にペンで書き込む。リストアップを終えると、時間帯を記入して“計画表”を作る日々を過ごした。「朝、考える時間も楽しいんですよね。今日はこういう日になるのかと考えています。1週間のバランスを考えながら。今日の更新が1週間に繋がるので」。再調整の期間も、ワクワクした表情を何度も見せた。
「自分の好きなことってなんだっけな? という時間にしたかったんです」
同僚たちが良い意味で「気持ち悪い」とつぶやくほどの“練習の虫”。2月の宮崎春季キャンプでも「野球の練習に来たんだから」と私服さえ持ち込まなかった。「外食に行く予定がなかったので……。行くとしてもコンビニかなと思ってスウェットだけ持っていきました」。唐突に守護神・平野佳寿投手から食事に誘われると焦ったが、そのままスウェットで“参戦”した。
「あんまり(私服を)持ってなかったんですよね。プロ1、2年目に買った服が入らなくて……。1番大きいサイズなんですけどね(笑)。また買い物に行って、新しい服を買いたいなと思っています。高校の時もほとんど遊びに行かんかったから、私服を持っていなかったんすよ(笑)」
明らかに“規格外”な21歳。ファームで過ごした2か月間では「リミッター解除」を行い、現状打破も図った。「元々は1人でいるのが好きなタイプなんです。部屋にいると野球のことを考えてしまうので……」。とある休日、早朝からハンドルを握った。「元々、車が好きだったんです。運転中も落ち着けるじゃないですか。どんどん進んでいけば自然にも出会えるので」。青い空に白い雲、木々の緑からもパワーを授かった。
街に繋がる高速道路も好きだが、山道も好み。何度もトンネルを越えた。暗闇があるから、光が眩しく見える。「リフレッシュというか……。自分の好きなことってなんだっけな? という時間にしたかったんです」。1度きりの人生、今を必死に生きる。ものさしで測れない経路は、地図には載っていない。ぶつかった壁を乗り越え、新たな道を描く。
○真柴健(ましば・けん)1994年8月、大阪府生まれ。京都産業大学卒業後の2017年に日刊スポーツ新聞社へ入社。3年間の阪神担当を経て、2020年からオリックス担当。オリックス勝利の瞬間に「おりほーツイート」するのが、ちまたで話題に。担当3年間で最下位、リーグ優勝、悲願の日本一を見届け、新聞記者を卒業。2023年からFull-Count編集部へ。
(真柴健 / Ken Mashiba)