巨人助っ人がリーグ随一の“6.98” 抜群の安定感…打者を圧倒する左腕の31%
DeNAが13勝8敗で6月のトップ、阪神&巨人は9勝12敗1分けと苦しんだ
6月に最もチームに貢献した選手をデータで探り出し、セイバーメトリクスの指標でセ・リーグの「月間MVP」を選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。
ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。
まずは、6月のセ・リーグ月間成績を振り返る。
〇DeNA:13勝8敗
得点率3.76、打率.259、OPS.718、本塁打20
失点率2.78、先発防御率2.12、QS率66.7%、救援防御率2.94
〇ヤクルト:13勝9敗
得点率3.82、打率.237、OPS.673、本塁打17
失点率3.56、先発防御率3.39、QS率50.0%、救援防御率2.39
〇広島:13勝10敗
得点率2.52、打率.218、OPS.572、本塁打9
失点率2.03、先発防御率1.54、QS率82.6%、救援防御率1.39
〇中日:10勝12敗1分
得点率1.78、打率.224、OPS.571、本塁打9
失点率3.40、先発防御率3.15、QS率47.8%、救援防御率1.85
〇阪神:9勝12敗1分
得点率2.27、打率.214、OPS.566、本塁打5
失点率2.39、先発防御率1.80、QS率77.3%、救援防御率 2.70
〇巨人:9勝12敗1分
得点率3.68、打率.249、OPS.662、本塁打14
失点率3.11、先発防御率2.63、QS率63.6%、救援防御率3.71
交流戦で勝ち越した3チームが月間ランキング上位を占めた。特にDeNAはパ・リーグの投手相手に18試合でOPS.740、本塁打16、平均得点4点をマークした。また、6月のDeNAは先制されても46%の割合で逆転勝ちを収めた。
打ちまくったDeNAオースティン…月間5発、17打点、OPS1.031はリーグ1位
そんなセ・リーグのセイバーメトリクスの指標による6月の月間MVP選出を試みる。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用いる。セ・リーグの打者のwRAAランキングは以下の通りだった。
〇オースティン(DeNA):wRAA10.51、85打席、OPS1.031、打率.346、本塁打5
〇ヘルナンデス(巨人):wRAA8.27、96打席、OPS.906、打率.352、本塁打3
〇牧秀悟 (DeNA):wRAA7.06、87打席、OPS.919、打率.295、本塁打5
〇サンタナ(ヤクルト):wRAA6.53、87打席、OPS.898、打率.288、本塁打4
〇丸佳浩(巨人):wRAA6.25、98打席、OPS.859、打率.352、本塁打2
〇野間峻祥(広島):wRAA6.11、77打席、OPS.784、打率.311、本塁打0
〇細川成也(中日):wRAA5.46、78打席、OPS.830、打率.308、本塁打1
上記のランキングに掲載されていないチームのwRAA上位の選手は以下の通り。
〇前川右京(阪神):wRAA1.45、77打席、OPS.709、打率.271、本塁打1
DeNA打撃陣の牽引役となったのが、タイラー・オースティンである。月間本塁打5本、打点17、OPS1.031はセ・リーグトップで、得点圏打率も.471と高水準。公式の月間MVPでも最有力候補であり、牧秀悟とともにDeNAの巻き返しに大きく貢献したオースティンを、セイバー目線で選ぶ月間MVPに推薦する。
巨人・グリフィンと阪神・才木が甲乙つけがたい活躍…決め手は与四球率と被本塁打
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用いる。上位ランキングは以下の通りだった。
〇グリフィン(巨人):RSAA6.98、登板4、28回2/3、防御率1.26、WHIP0.73、奪三振率11.30、与四球率0.63、QS率75%、HQS率75%
〇才木浩人(阪神):RSAA6.42、登板4、32回、防御率0.56、WHIP0.72、奪三振率9.00、与四球率1.41、QS率100%、HQS率100%
〇ジャクソン(DeNA):RSAA5.57、登板4、26回2/3、防御率1.01、WHIP0.75、奪三振率8.44、与四球率2.03、QS率100%、HQS率50%
〇村上頌樹(阪神):RSAA5.39、登板4、27回1/3、防御率1.98、WHIP1.10、奪三振率8.56、与四球率0.99、QS率50%、HQS率 25%
〇森下暢仁(広島):RSAA4.36、登板3、22回、防御率2.05、WHIP0.68、奪三振率5.73、与四球率0.41、QS率67%、HQS率 67%
〇高橋宏斗(中日)RSAA3.77、登板4、25回、防御率1.08、WHIP0.96、奪三振率7.20、与四球率0.72、QS率75%、HQS率 50%
上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。
〇高橋奎二(ヤクルト)RSAA1.84、登板3、イニング16回1/3、防御率2.76、WHIP1.65、奪三振率8.27、与四球率4.96、QS率67%、HQS率33%
6月のセ・リーグで印象的な活躍をしたといえば広島・大瀬良大地と言えよう。7日のロッテ戦でノーヒットノーランを達成するなど、6月の4試合で防御率0.00、QS率100%、35回1/3連続無失点(継続中)と、先発陣の要となった。2勝と勝ち星には恵まれなかったが、公式の月間MVPの最有力候補だろう。ただ、RSAAは2.88と低めの評価で、同じチームの森下の方が上回っている。
RSAAの観点からチームに大きく貢献したと評価された投手は、巨人のフォスター・グリフィンと阪神の才木浩人である。才木は6月2日のロッテ戦で完封勝利を飾るなど、月間4登板すべてでHQSを達成している。グリフィンは15日の日本ハム戦で8回2/3を無失点など、3試合でHQSを達成している。また奪空振り率「Whiff%」は才木の25%を上回る31%を記録した。奪三振率やゴロで仕留める投球術など甲乙つけ難い活躍だったが、与四球率と被本塁打数の差によって、RSAAはグリフィン方が上回った。よって、セイバー指標で選ぶ6月の月間MVPにグリフィンを推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。