宗佑磨が“褒める”後輩の1勝…「家族のような感覚」 育成5年を超えた佐藤一磨のデビュー戦

オリックス・宗佑磨(左)と佐藤一磨【写真:北野正樹】
オリックス・宗佑磨(左)と佐藤一磨【写真:北野正樹】

オリックス・宗佑磨、後輩の佐藤一磨に「とにかくすごいこと。素晴らしいです」

 遅咲きの後輩が誇らしかった。オリックス・宗佑磨内野手が、高卒5年目で育成から支配下選手登録された翌日の試合で「プロ初登板、プロ初先発、プロ初勝利」を挙げた横浜隼人高の後輩、佐藤一磨投手に賛辞を送った。
 
「とにかくすごいこと。素晴らしいです。ナイスピッチングでした。大きな一歩ですね」
 
 偉業を成し遂げた6月9日の巨人戦(東京ドーム)。宗は、スタメンを外れた。本来なら、走攻守で佐藤を盛り立てたかった。宗は「(ベンチスタートは)僕にはわかりません。僕は(いつでも)試合に出たいんです」と悔しがった。ただ、グラウンドで支えられなかったことが、結果的に佐藤を落ち着かせることにつながった。

 ベンチで宗は、常に佐藤の前に座り、声を掛け続けた。「何を言ったか、よく覚えていないんですが、ゆっくりと落ち着いて自分の時間を作れるような話をしただけです。あいつが頑張っただけで、僕は何もしていませんよ。自分で掴んだチャンスを自分でものにしたという、それだけのことです。これは完全にあいつの努力でしょう」。シャイな性格そのままの言葉でたたえたのは、佐藤の“不断の努力”を知っているからだった。
 
 横浜隼人高から2014年ドラフト2位でオリックスに入団した宗に対し、佐藤は2019年の育成ドラフト1位で入団。1年目は腰痛に苦しみ、4年目の昨季は2軍で最多勝タイトルを獲得したものの、支配下登録をされるまで5年を要した。

「育成という立場で、危機感も当然持っていたでしょうし、同期の宮城(大弥投手)や紅林(弘太郎内野手)が活躍して、悔しい気持ちもあったと思います。頑張っていたところも知っていますし、本当に野球一筋でずっとやってきているところを見てきたんで」

「自分のことのような感覚でしたね。親のような、家族のような感覚でした」

 2021年から3年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞している宗自身、一度は外野手に転向し、三塁の定位置を確保するまで7年を費やしただけに、契約3年目以降は再契約の保証がない不安定な育成選手の立場で自分を見失うことなく、初志を貫いた後輩の心中を慮った。

 佐藤は「いろいろ話して下さったのですが、あまりよく覚えていません。ネクストバッターサークルに向かうタイミングを教わったり『いいぞ、いいぞ』と普通に声を掛けてもらったりして落ち着けました」と感謝する。

 宗は「(初勝利は)うれしかったです。自分のことのような感覚でしたね。親のような、家族のような感覚でした。良い刺激を受けました」。今季、2度のサヨナラ打を放つなどチームを鼓舞し続ける宗。今度は自身のバットで佐藤を支える。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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