“時短効果”で若年層を取り込み 人気回復へ差し込む光…伸びる観客動員&視聴率【マイ・メジャー・ノート】
「時短」目的の新ルール導入が奏功…若年層を取り込んで観客数がアップ
メジャーリーグ(MLB)の人気回復へ光が差し込んでいる。
昨季の観客動員数が前年から大幅な伸びを見せ、若者層も増加したことで、ロブ・マンフレッドコミッショナーが溜飲を下げたという報道が今春、多くあった。MLBが喫緊の課題としていたことが「時短」の取り組みで好転している。
MLBは北米4大スポーツの1つだが、競合するアメリカンフットボール(NFL)、バスケットボール(NBA)に比べるとファン層が高齢で、若者に人気がなかった。その一因として「試合時間の長さ」が指摘されてきた。
若年層の引き寄せなくして観客動員数の伸びは見込めない。スピーディーな展開を志向する彼らをふり向かせるための窮余の一策としたのが、ピッチクロックや牽制球の回数の制限など、「時短」を目指した新ルールの導入だった。これが特効薬となる――。
2023年の平均試合時間は2022年の3時間3分44秒から2時間39分49秒で、約24分も短縮。18歳から35歳のファンの入場券購入率は昨季までの4年間で10%伸び、チケットを購入したファンの平均年齢は、2019年の51歳から昨季は45歳になった。
同コミッショナーが数年来取り組んできた時短策は、若年層の視線の引き寄せに成功し、観客動員と呼応。2022年の6455万6658人から2023年は7074万7365人へと上向き、9.6%増となった。(米スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」発表)
全国ネットの全局でTV視聴率がアップ、ストリーミングも15%増
では、昨季の「時短効果」は今季に波及しているのだろうか――。
老舗の専門誌「スポーツビジネス・ジャーナル」が7月頭の最新号で、今季の前半81試合から分析した調査結果を詳報している。それによると、まず、1試合の平均時間は2時間36分で、前年同時期より2分の短縮。
観客数は2%の51万1353人の増加となっているが、ダイヤモンドバックス、オリオールズ、レッズ、ガーディアンズ、タイガース、ロイヤルズ、パイレーツ、ジャイアンツ、レンジャーズ、ナショナルズの10チームが10%以上もの伸び率を示した。
そして、テレビとストリーミングの視聴率が連打で続く。
MLBの球団はほとんどの試合の放送権を全米ネットワークの地方局かローカルテレビ局が保有しているが、全国ネットのFox(8%)、FS1(7%)、ESPN(サンデーナイト・ベースボール)5%、MLB Network(11%)のすべてで視聴率がアップしている。
さらには、ストリーミングのMLB.TVも15%増となった。選手のユニホームに装着した超小型マイクを通し、実況席との会話を入れ込む中継は時短と相まって若年層の支持を受け、18歳から34歳の視聴者は前年の同時期と比べ23%も増えているという。
昨年は6年ぶりの観客動員7000万人突破…現実味帯びる2年連続
2020年から「ワンポイントリリーフの禁止」「タイブレーク制の導入」、そして2023年の「ピッチクロック」「一、二、三塁ベースの大型化」「極端な守備シフトの禁止」など、次々と改革を断行してきた同コミッショナーは中継にも「従来型の放送ではファン層の拡大に限界がある」とし、今季前半戦の好結果へと導いている。
昨季の終盤、同コミッショナーは2017年以来6年ぶりとなった観客動員7000万人突破について「プレーオフの形式、日程の均衡、ルール変更」などの主要因を挙げているが、時間をかけ改革への諸策を遂行したことが吉と出た格好だ。
ワールドシリーズ連覇は、ヤンキースが1998年から2000年にかけて成し遂げた3連覇以来ない。年間7000万人のファンを連続して動員したことは一度もない。MLB史上初の連続大台突破が現実味を帯びる。
○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模野球部OB。シアトル在住。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)