愛情を込めて西川龍馬が選曲した「酒と泪と男と女」 落ち込む紅林弘太郎に密かな思いやり
オリックス・西川龍馬が思いやった紅林の心…「飲んで、飲んで、飲まれて、飲んで」
辛い時、表には“見えない手”を差し伸べてくれる仲間がいる。怠慢プレーで「2軍落ち騒動」の渦中にあったオリックス・紅林弘太郎内野手の登場曲を変更して激励したのは西川龍馬外野手だった。プロ野球界の先輩は“愛情”のこもったイジリで勇気づけた。
西川に真相を尋ねると「あの日の練習前に宗(佑磨内野手)が(紅林への選曲に)悩んでいたので『これでいいやんか』とあの曲を教えたんです。飲んで、飲まれて、頑張れよという気持ちですね」。いたずらっぽく笑った。
8月3日のロッテ戦(京セラドーム)で2日ぶりの試合出場となった紅林は、河島英五さんの「酒と泪と男と女」が登場曲として“流れながら”第1打席に向かった。
「忘れてしまいたいことや、どうしようもない寂しさに」で始まる名曲。場内に流れたのは「飲んで、飲んで、飲まれて、飲んで」の歌詞だったが、紅林が2日前の日本ハム戦(エスコンフィールド)で二塁ベースカバーの遅れを中嶋聡監督から厳しく指摘され、2軍落ち騒動が話題となっていた直後だけに、絶妙のタイミングと歌の内容にスタンドから笑いと大きな拍手が起きた。
紅林は、第1打席で投手強襲の内野安打で出塁すると、5回にはレフトへ2点適時打、8回も中越え二塁打を放った。3安打猛打賞の活躍で、勝ち越し2点適時打の来田涼斗外野手とともにチームの連敗を「10」でストップさせた。
ベンチで寄り添い「やってしまったことは仕方がない。次が大事やぞ」
紅林の登場曲は、チャンス時にX JAPANの「紅」が登録されているが、宗がチーム状況や紅林の好不調を考慮して本人に内緒で“勝手に”変更してきた。現在の登場曲の1つは「Dr.スランプ アラレちゃん」のオープニングテーマ「ワイワイワールド」。子どもも楽しめる軽快なメロディーがスタンドの観客を笑顔にさせ、次にどんな選曲がされるかもファンの関心を呼んでいる。
そんな選曲に移籍1年目の西川が“参戦”したのには、伏線があった。1日の試合中、怠慢プレーの後の打席で交代を命じられベンチに座る紅林に寄り添い「やってしまったことは仕方がない。次が大事やぞ。明日、試合に出たら頑張れ」と声を掛けたのだった。
3日の1軍練習に合流した紅林。登場曲の選曲に、練習前のベンチで思いを巡らせる宗へ西川が「酒と泪と男と女」を推薦。その場で曲を聞いた宗も笑顔で即決した。紅林は「誰のなんという曲か、聞いたこともなかったのですが、スタンドのファンの方が喜んでくれたようで、よかったと思います」と苦笑い。歌詞の内容までは把握はしておらず、西川の思いはその場では伝わらなかったようだが、気分転換にはなった。
端正な顔立ち。走攻守に一喜一憂しないクールさが西川の魅力だが、ベンチ内では応援歌に大きく体を揺すってリズムをとるなど、お茶目な一面もある。「カープ時代も、よくやっていましたよ。流れが悪いときなんかに、いろいろ変えてました」といい、守備でミスをした先輩の野間峻祥外野手の登場曲を、本人に知らせず、ZARDの「負けないで」に変更したこともあった。
紅林は「言葉ではなく、これからの行動が大切だと思うので、ちゃんと行動で示していきたいと思います」と今回の騒動を受け止めている。済んだことは忘れ、前に進むことの大切さを教えたのは、西川の愛情があふれる選曲だった。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)