選抜王者が涙「もう2度とできない」 春夏連覇へ直談判…主将の勇気に「救われた」

智弁学園戦に出場した健大高崎・箱山遥人【写真:加治屋友輝】
智弁学園戦に出場した健大高崎・箱山遥人【写真:加治屋友輝】

健大高崎・箱山遥人「日本で一番仲間に恵まれて、最高な主将生活を送れた」

 最後まで主将としての責任感を貫いた。健大高崎(群馬)は14日、甲子園で行われた第106回全国高校野球選手権大会の2回戦で智弁学園(奈良)に1-2で敗れた。春夏連覇の夢に届かなかった箱山遥人捕手(3年)は涙が止まらなかった。

「もう2度と高校野球ができない……。すごく悲しいです」

 健大高崎ナインの泣き声は、グラウンドから控え室まで続く通路に響き渡っていた。先頭を歩く箱山主将はインタビュー台に立つと、止まらない涙を抑えながら思いを発した。

 この夏は3年生が鍵だった。群馬大会を戦うメンバーが発表され、例年メンバー外の3年生たちはサポート役へ回る。しかし箱山はメンバーとの温度差ができてしまうことを懸念し、大会中でも全員の練習参加を青柳博文監督へ直談判。監督はこれを受け入れ、紅白戦も今まで通り全員で取り組んだ。さらに監督からは「甲子園に行けたらメンバーを2人入れ替える」と群馬大会前に予告された。メンバー外の3年生の心に火がついた。

 さらに智弁学園戦の2日前、箱山は指導者たちのもとを再度訪れた。エース石垣元気投手をはじめとする2年生の投手陣の負担軽減が必要不可欠と考え、「春夏連覇するには、3年生がここで登板するしかないと思います」と思い切って提案した。

 この日先発した杉山優哉投手(3年)は選抜でベンチ入りしたものの、群馬大会ではメンバーから外れた。落胆していた時に箱山の行動を知った。「もし(直談判が)なかったら腐っていたかもしれない。自分は箱山に救われました」と何度も感謝を口にした。

 感謝の気持ちはお互い様だ。「本当に幸せでした。もう二度とこんな2年半は過ごせないと思います。この先、野球を続けても、こんな大観衆の中で、この仲間とこれだけ熱い気持ちを持って泥臭くプレーすることは、もう二度とできないと思います。100年、90年人生がありますが、本当にこの2年半は80年分ぐらいの濃い時間を過ごしたと思います」。もう箱山に涙はなかった。

「日本一にはなれませんでしたが、日本で一番仲間に恵まれて、最高な主将生活を送れたと思います」。夢は叶わなかった。甲子園の土も持ち帰らなかった。それ以上に価値のある仲間とともに胸を張って群馬へ帰る。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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