痛感したレベルの差、頭をよぎった“転部” 挫折を乗り越えた右腕…諦めなかった聖地

岡山学芸館戦に登板した掛川西・増井俊介【写真提供:産経新聞社】
岡山学芸館戦に登板した掛川西・増井俊介【写真提供:産経新聞社】

掛川西・増井俊介投手「卓球部に入ろうかと」

 まさか甲子園まで来られるとは考えもしなかった。第106回全国高校野球選手権大会は15日に大会第9日が行われ、第2試合で掛川西(静岡)は岡山学芸館(岡山)に0-2で敗れた。8回から登板した掛川西の増井俊介投手(3年)は入部当初「卓球部に転部しようかと考えていました」と意外な告白をした。

 187センチ97キロの恵まれた体格から、堂々とした投球を披露した。増井は日本航空(山梨)戦では4回無失点、岡山学芸館戦では1回無失点に抑える活躍を見せた。甲子園で躍動した右腕だが、入学当時は卓球部への転部を本気で考えていたという。

 元々、国公立大学に入るために進学校である掛川西を選び、中学の部活引退後は受験勉強に励み合格を掴んだ。受験勉強のブランクもあり体力は落ち、4月に体験入部した際には、レベルの高さに面を食らった。「死ぬかと思いました……」。ハードな練習に何度も退部を考えた。

「中学の頃はチームも弱く、能力も高くありませんでした。元々卓球は好きだったので……」と、卓球部への転部を考え始めていた。それでも仲間から「一緒に頑張ろう。一緒に甲子園を目指そう」と励ましを受けるうちに、転部の2文字は頭から消えていた。自分の可能性を試したいと思うようになっていた。

 それからは練習に明け暮れた。どんな練習でも周りより一段階劣っている状態。体力的にも精神的にも全くついていけず「涙を流しながら必死に食らいつく日々でした」と辛い毎日を振り返った。そんな人一倍の真面目さで少しずつ上達し、甲子園で活躍するほどの選手にまで成長した。

 大石卓哉監督も「入部当初はこんな投手になるとは夢にも思いませんでした」と成長幅に驚きを隠せない。「勉強も得意で、コツコツと努力できる選手。これからいろんな選手が壁に当たると思いますが、そんな時は増井君の話を伝えたいですね」と目を細めた。

 まだ進路は決まっていない。ただここまで夢中にさせてくれた野球をどんな形であれ続けたいと思っている。「後悔はありません。こんな経験をさせてもらって、後悔なんて言ったら高校野球に失礼ですから」。ここまで支えてくれた全ての人に、2年半前野球部に残ることを決めた自分に感謝して高校野球を卒業する。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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