マウンドで探す「時計」 援護がなくても…好調維持の曽谷龍平、たどり着いた「無の境地」
オリックス・曽谷龍平のポリシー「いい時こそ、練習をする」
雑念を消し、ボールに魂を込める。オリックス・曽谷龍平投手が「無の境地」で先発ローテーションを守っている。「僕だけじゃないと思います。どの投手も調子がいい時には、マウンドで何も考えていない『無の境地』だと思いますよ。練習でやってきたことが、勝手にできている状態なんです」。好調の秘密を笑顔で明かしてくれた。
曽谷は奈良県斑鳩町出身。秋田・明桜高、白鴎大学から2022年のドラフト1位でオリックスに入団。1年目は好投するもプロの壁にはね返され、10試合目の登板となったレギュラーシーズン最終のソフトバンク戦(10月9日、京セラドーム)でプロ初勝利をつかんだ“苦労人”だ。
プロ2年目の今季は、開幕から先発ローテの一角を担い、フル稼働し続けている。16試合で5勝9敗、防御率2.27。7月2日の楽天戦(弘前)の5勝目以来、自身6戦6連敗と勝ち星に恵まれないが、この間の打線の援護はわずかに1点のみ。そんな中で抜群の安定感を維持できるのは、「無の境地」で試合に臨むことができるからだという。
「調子が悪い時は『矢印』が自分に向いてしまうんです。試合中にフォームのことなどを考え出してしまうと、相手(打者)との勝負ができません」。状態が悪い時に練習をするのは当然だが、「いい時こそ、練習をする」のがポリシー。追い込まれた精神状態ではなく、心に余裕のある時こそさらなる高みを求める練習ができ、進化につながるというわけだ。
ただ、いつもマウンドでいい状態を再現できるとは限らない。そんな時、曽谷は球場で探すものがある。「自分は、時計を見ますね。場内の時計を探すんです。時間を確認するのではないですよ(笑)。(悪い時は)投球の『間』が一緒だったりするので、リセットします」と、間合いを取って「矢印」を打者に向ける。
「まだ、2年目で1年間をフルに投げたことがありません。この経験を次の年にどう生かせるのか。すべては経験だと思っています」。勝ち星以上に得たものを胸に、進化し続ける。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)