中日22歳が“最強”のワケ 「10.97→8.78」も圧倒…2か月連続トップの衝撃
8月に貯金6…月間首位の広島を支えた投手陣
8月に最もチームに貢献した選手をデータで探り出し、セイバーメトリクスの指標でセ・リーグの「月間MVP」を選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。
ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まずは、8月のセ・リーグ月間成績を振り返る。
〇広島:15勝9敗1分
得点率3.48、打率.265、OPS、.663、本塁打12
失点率2.78、先発防御率2.56、QS率56.0%、救援防御率1.98
〇巨人:13勝10敗1分
得点率3.38、打率.256、OPS.695、本塁打14
失点率3.14、先発防御率3.50、QS率62.5%、救援防御率2.14
〇DeNA:12勝10敗1分
得点率4.52、打率.269、OPS.737、本塁打21
失点率3.73、先発防御率3.37、QS率52.2%、救援防御率2.85
〇阪神:11勝13敗1分
得点率3.92、打率.252、OPS.687、本塁打16
失点率4.07、先発防御率3.67、QS率48.0%、救援防御率3.36
〇中日:10勝13敗2分
得点率3.44、打率.250、OPS.643、本塁打12
失点率3.40、先発防御率4.05、QS率44.0%、救援防御率2.06
〇ヤクルト:9勝15敗
得点率3.46、打率.238、OPS.639、本塁打15
失点率5.49、先発防御率5.33、QS率33.3%、救援防御率4.63
7月30日から8月6日までの7連勝の勢いで、大きく勝ち越した広島が月間の首位となった。原動力は投手陣。先発は3度の完投勝利を含め、9度のHQS(7回以上自責2以下)を達成。救援防御率も1.98。4回以降リードすれば、勝利に100%導いた。
オースティンの月間OPSは1.050…3か月連続で1超え
そんなセ・リーグのセイバーメトリクスの指標による8月の月間MVP選出を試みる。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用いる。
セ・リーグ打者のwRAAランキングは以下の通りになった
〇タイラー・オースティン(DeNA):wRAA11.38、96打席、OPS1.050、打率.321、本塁打7
〇坂倉将吾(広島):wRAA8.98、101打席、OPS.953、打率.368、本塁打4
〇森下翔太(阪神):wRAA8.47、108打席、OPS.918、打率.315、本塁打4
〇宮崎敏郎(DeNA):wRAA8.36、65打席、OPS1.063、打率.407、本塁打2
〇長岡秀樹(ヤクルト):wRAA8.18、106打席、OPS.934、打率.384、本塁打3
〇近本光司(阪神):wRAA8.05、115打席、OPS.900、打率.390、本塁打0
〇梶原昂希(DeNA):wRAA7.01、101打席、OPS.890、打率.360、本塁打3
〇大城卓三(巨人):wRAA6.53、105打席、OPS.848、打率.269、本塁打5
〇細川成也(中日):wRAA6.25、110打席、OPS.800、打率.297、本塁打4
1試合平均得点が4点以上と打線が好調だったDeNAから、wRAAランキング上位に3選手が挙がった。特に目立った活躍をしたのが3年目の梶原。出場22試合のうち20試合で安打を放ち、月間打率.360を記録した。ただ四死球による出塁がないため出塁率も.360だった。
wRAAの観点から最もチームに貢献したのがオースティン。月間OPS1.050はリーグ断トツで、6月は1.031、7月は1.064と3か月連続で月間OPS1超えを達成した。チームの得点源として大きく貢献しているオースティンをセイバー指標で選ぶ8月の月間MVPに推薦する。
打たせて取っても凄い…7月とは異なる投球スタイルをで圧倒した高橋宏斗
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用いる。セ・リーグ投手の8月のRSAAランキングは以下の通りになった。
〇高橋宏斗(中日):RSAA6.82、登板4、イニング26回2/3、防御率2.70、WHIP1.20、奪三振率8.78、与四球率3.38、被本塁打0、QS率75%、HQS率50%
〇戸郷翔征(巨人):RSAA5.04、登板5、イニング37、防御率2.58、WHIP1.05、奪三振率8.27、与四球率1.95、被本塁打1、QS率60%、HQS率60%
〇東克樹(DeNA):RSAA4.92、登板4、イニング30、防御率0.90、WHIP0.80、奪三振率6.75、与四球率0.56、被本塁打1、QS率100%、HQS率75%
〇アンドレ・ジャクソン(DeNA):RSAA4.90、登板4、イニング24回2/3、防御率2.19、WHIP0.85、奪三振率7.30、与四球率1.09、被本塁打1、QS率75%、HQS率25%
〇フォスター・グリフィン(巨人):RSAA4.74、登板4、イニング24回1/3、防御率4.07、WHIP1.03、奪三振率11.84、与四球率1.11、被本塁打2、QS率75%、HQS率25%
〇高橋遥人(阪神):RSAA4.25、登板2、イニング11、防御率0.82、WHIP0.91、奪三振率11.45、与四球率1.64、被本塁打0、QS率50%、HQS率0%
〇森下暢仁(広島):RSAA3.84、登板4、イニング29、防御率1.55、WHIP1.03、奪三振率7.76、与四球率1.86、被本塁打1、QS率75%、HQS率75%
上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の投手は以下の通りである。
〇エルビン・ロドリゲス(ヤクルト):RSAA2.23、登板9、イニング11回1/3、防御率1.59、WHIP1.06、奪三振率11.91、与四球率2.38、被本塁打0
7月に続き、8月も顕著な活躍を示したのが高橋宏である。7月は登板4試合すべてで無失点だったが、8月は4試合で8失点。奪三振率も10.97から8.78と低下したもののハイレベルであることには間違いない。打たれた打球についてはゴロが全体の70%、内野フライが6%と、今月は打たせて取る投球で結果を残した。暑い夏を圧倒的な投球で乗り切った22歳右腕を、セイバー指標で選ぶ8月の月間MVPに推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。