NPBの“投高打低”は「パワー重視の影響」 異常事態に専門家が警鐘「両立は難しい」
防御率1点台8人の一方で3割打者3人…新井宏昌氏の見解
今季NPBでますます強まっている“投高打低”の傾向。防御率1点台の投手が激増し、3割打者の減少には歯止めがかからない。原因はどこにあるのか。現役時代に通算2038安打の“安打製造機”、引退後はオリックスなどで名コーチとして鳴らした野球評論家・新井宏昌氏に見解を聞いた。
7日現在、セ・リーグでは防御率1点台(規定投球回以上)の投手がなんと7人もいる。リーグトップの中日・高橋宏斗投手(1.14)を筆頭に、広島・大瀬良大地投手(1.46)、阪神・才木浩人投手(1.57)、巨人・菅野智之投手(1.66)、DeNA・東克樹投手(1.74)、広島・床田寛樹投手(1.86)、同・森下暢仁投手(1.94)とズラリと並んでいる。パ・リーグのソフトバンク、リバン・モイネロ投手(1.97)を含めNPB全体で8人。昨年の3人(阪神・村上頌樹投手、東、オリックス・山本由伸投手=現ドジャース)も決して少ない方ではなかったが、今季は極端だ。
対照的に、一流打者の称号である3割打者は現状で、ヤクルトのドミンゴ・サンタナ外野手(.318)、中日・細川成也外野手(.300)、ソフトバンク・近藤健介外野手(.311)の3人のみ。昨年は5人。6年前の2018年にセ・リーグだけで15人(パ・リーグは5人)に上っていたのに比べると、早くも隔世の感がある。
本塁打も、セ・リーグトップのヤクルト・村上宗隆内野手が23本にとどまっており、残り21試合で30本の大台到達は微妙か。セ・リーグの本塁打王が20本台となれば、1961年の巨人・長嶋茂雄氏(28本)以来63年ぶりの“異常事態”となる。昨年26本で3人がタイトルを分け合ったパ・リーグでは、西武時代の昨年17試合で0本塁打に終わったソフトバンク・山川穂高内野手が、30本の大台に乗せ断然トップだが、山川自身が2022年に41本塁打していたのに比べると、やはり低調である。
新井氏は「(投高打低の)原因を特定するのは非常に難しい」とした上で、「最近のバッターは技術よりパワーを重視する傾向が強く、それが影響している気がします。技術がなければ高い打率は残せませんし、パワーだけでは本塁打も増やせませんから」と警鐘を鳴らす。
「1年間素晴らしい成績を挙げたのに翌年ダメという選手も多い」
新井氏自身、直近では2019年と2020年にソフトバンクの2軍打撃コーチを務めたが、「試合後に技術練習をしようとしても、球団から『ウエートトレーニング専門の先生が来られるから、そちらを優先するように』と指示されることがありました。システム自体が、どちらかと言うと体力強化優先。技術がまだ心もとない選手が多い中で、両立は非常に難しいことでした」と振り返る。
「最近は、1年間素晴らしい成績を挙げたのに翌年は全然ダメ、という選手も多い。高い数字を維持するだけの技術がないのだと思います」とも新井氏は指摘する。
2022年に3冠王に輝いた村上にしても、本塁打と打点では今季もタイトル争いを展開しているが、打率は2022年の.318から、昨年.256、今季.231と降下している現実がある。新井氏は「村上は一昨年、クローズド気味のスタンスで3冠王を獲得しましたが、今季は強く振ろうとした時に引っ張りにかかる動きになり、バットが遠回りしたりしている。現状ではスクエアに戻した方が、結果が出やすいのではないかと見ます」と指摘。「私自身、現役時代にクローズドスタンスで打率.358をマークしたことがありますが、その後打てなくなり、逆にオープン気味に変えました。相手もあることなので、常に変化は必要です」と付け加えた。
球界には、投手側のレベルアップを要因に上げる声もある。いずれにせよ選手の立場としては、「ボールが飛ばない」などと言う以前に、取り組むべきことがありそうだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)