両腕を上げて47.6→70.1 衝撃数値を生んだ“ひらめき”…好調維持のオリ左腕に転機

オリックス・田嶋大樹【画像:パーソル パ・リーグTV】
オリックス・田嶋大樹【画像:パーソル パ・リーグTV】

オリックス・田嶋大樹がワインドアップ投法で好調

 ルーキーイヤーから先発ローテーションを支えてきたオリックスの田嶋大樹投手。昨オフに山本由伸投手や山崎福也投手が退団して迎えた今季は、先発陣を引っ張る活躍を期待されるも、6月を終えた時点での防御率は4.11と苦しい投球が続いていた。ところが、7月に入ってからは9試合に先発して防御率2.77と改善。6月以前とは全く違った姿を披露している。入団7年目を迎えた左腕にどのような変化があったのか、好調の要因に迫る。

 7月最初の登板となった9日のソフトバンク戦でこれまでにない投球フォームでマウンドに上がった。「(過去に)記憶がない」と語るワインドアップ投法。振りかぶって投げるフォームで臨んでいる。不振から抜け出すべく、6月以前の登板でも足の上げ方や始動の腕の位置などを試行錯誤していたが、この日は試合前のキャッチボールで好感触を得たというワインドアップ投法で、ソフトバンク打線を7回3安打無失点に抑える好投を披露した。

 ワインドアップ投法に挑戦した結果、大幅に向上したのが初球をストライクゾーンに投じた割合である。この割合は6月までリーグ平均を下回る47.6%にとどまり、ボール先行の投球が成績の低迷につながっていた。しかし、ワインドアップ投法を取り入れた7月9日の登板では、この時点での今季最高値となる70.1%を記録。多くの打者から初球でストライクを奪うことに成功し、7回無失点の快投を見せた。

 さらに、投球フォームと制球力に関しては興味深いデータがあった。ワインドアップ投法は腕を振りかぶって投げる性質上、クイックができないため走者を置いた場面では用いられない。ワインドアップ投法によってコントロールが安定しているのであれば、走者がいない場面に限って制球力が向上していることが想像される。ところが、田嶋は走者を置いたセットポジションでの投球時にも7月以降は初球のストライクゾーン割合が上昇していた。

 また、投球フォームの変更を機に、制球力だけでなく球速の向上も。6月まではストレートの平均球速が143キロ前後であったが、ワインドアップ投法を取り入れた7月9日の試合では、この時点での今季最速となる145.8キロを計測。以降の登板でも同水準で推移しており、6月以前からはスピードアップに成功していた。そして、この球速の向上は、ワインドアップのときだけでなくセットポジションでも同様の傾向が見られた。ワインドアップ投法を取り入れたことで、セットポジションでの制球力と出力がともに向上している点は、興味深い。

 ワインドアップ投法を取り入れて以降、それまでとは打って変わったピッチングを披露するようになった田嶋。ストライク先行の投球は与四球の減少につながり、球威の向上も相まって被打率の改善および長打の減少へとつながった。ここまで示してきたように、ワインドアップ時はもちろんのことセットポジションでの投球時にも各種成績は改善していた。これによって、6月以前の平均投球回5.0から7月以降は6.1とより多くのイニングを投げられるようになり、オリックスの先発陣に欠かせない存在となっている。

 投球フォームの再現性が重視される現代において、ワインドアップ投法に挑戦することは投手にとって勇気のいる挑戦だろう。過去に経験がないというワインドアップへフォームを変更して成績を向上させた田嶋のケースは、不振に苦しむ他の投手にとっても進化のヒントになり得るかもしれない。

※文章、表中の数字はすべて2024年9月13日終了時点

(「パ・リーグ インサイト」データスタジアム編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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