突然いなくなった捕手の“準備” 秘密で受けたブルペン投球…山足達也の生きる道

オリックス・山足達也【写真:北野正樹】
オリックス・山足達也【写真:北野正樹】

オリックス・山足達也「行けと言われて『行けません』なんて絶対に言わないように」

 備えあれば憂いなしである。オリックスの山足達也内野手が、ベンチで存在感を示している。「試合に出られるのなら、何でもやりますよ」。いつもは控え目に話す山足が語気を強めたのは、5月31日の中日戦(京セラドーム)の後だった。

 9回1死一、三塁から宗佑磨内野手の左犠飛で、三塁走者の宜保翔内野手が本塁にヘッドスライディングで生還し、劇的なサヨナラ勝利で終えた試合。表面には出なかったが、ベンチ裏では試合展開を想定して様々な対策が練られていた。

 その1つが「捕手・山足」の準備だった。4番で先発出場の森友哉捕手が、4回の走塁で右太ももの裏を痛め、5回の守備から若月健矢捕手に交代した。「捕手」で登録されている頓宮裕真捕手がいるとはいえ、「7番・一塁」で先発出場していたため、控え捕手がいなくなってしまった。

 白羽の矢が立てられたのは、山足だった。「高校(大阪桐蔭)時代にちょっとだけやったことがありました。行けと言われて『行けません』なんて絶対に言わないように心の準備はしています」と、斎藤俊雄バッテリーコーチから指示を受ける前から出番を確信。ブルペンに向かい、プロテクターやミットを借りて、中継ぎでの登板が予想された井口和朋投手のボールを受けた。

「頓宮はいますが、何かあった時に(ベンチに)代わりが誰もいないと困るので、最悪(の事態)を想定しました」と斎藤コーチ。森が退いた後、ベンチに残っていた野手は山足のほかに宜保、廣岡大志内野手、小田裕也外野手、渡部遼人外野手の5人だった。「代打や代走などもあり、誰が(捕手に)当てはまるのかを総合的に考えた結果です」と斎藤コーチは人選の舞台裏を明かした。

「あのプレーの映像を記事につけて、みなさんにみてもらって下さいよ」

 大阪桐蔭高、立命大、Honda鈴鹿から2017年ドラフト8位でオリックスに入団して7年目。先発出場の機会は少ないものの、内野の全ポジションをこなせる貴重な戦力として勝ち試合での守備固めなど重要な場面で起用されることが多い。
 
 出番は少なくても、準備は怠らない。全体練習が始まる1時間も前から外野でランニングし、ストレッチで体をほぐす。その準備が若手選手や1軍のチームメートをうならせたのは、8月16日だった。実戦機会を求めてウエスタン・リーグのくふうハヤテ戦(杉本商事BS舞洲)に出場。二塁守備で中堅へ抜けようかとする打球を走りながら逆シングルで捕球し、ジャンピングスローでワンバウンド送球してアウトにした。

「5年前ならノーバウンドで送球できたんですが(笑)。あのプレーの映像を記事につけて、みなさんにみてもらって下さいよ」と“ご機嫌”で自画自賛するプレー。一塁を守っていた2年目の内藤鵬内野手も「捕りやすいバウンドの送球も含めて、名手だと改めて思いました」とプロの技に脱帽だった。

 夜は京セラドームでの日本ハム戦に8回の二塁守備から出場。8回2死からアニュラス・ザバラ投手が投じた160キロのストレートを見極め、四球を選んだ。直後に二盗にも成功して西野真弘内野手の適時打をお膳立てした。

「クイックのタイムが遅かったんです。西野さんはうちの誇る天才バッターですから。いい形で打てるように早いカウントで走れば得点になると、自信を持って走りました」。データをインプットした上での確信を持ったプレーだったことを強調した。「出塁してすぐに(盗塁を)成功させるって、やっぱり準備をしているからこそだと思います。せっかく走ってくれたんだから(本塁に)かえしたいという気持ちになりました」と、西野は山足のアシストに感謝した。

志願の親子ゲームで準備…「野球をやりたいです」

 山足にとっては7月21日の楽天戦(ほっともっと神戸)以来の打席だったが「そんなこと、慣れっこです。モチベーションを保つというより、気合と根性です(笑)。集中力をいかに保ってやるかですね」。猛暑の中での2軍戦の出場を「野球をやりたいです」と志願。安打を放ったことも、夜の公式戦での殊勲の「四球」にもつながっていた。
 
 2022年以降、無失策を続けている。昨オフにドジャースへ移籍した山本由伸投手が2年連続してノーヒット・ノーランを達成した時も守備固めで一塁守備に就いていた。1度目は一ゴロを捕球しベースカバーの山本にトスして試合を成立させ、2度目は二ゴロを処理した宜保の送球を受けて2年連続の快記録を達成させたのも、秘かな自慢。チームに欠かせないバイプレーヤーは、今日も準備を怠ることはない。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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