大怪我で生死さまようも…川瀬堅斗の叶えた夢 兄弟対決も試合では“敵”「もう関係ない」
川瀬堅斗、兄・晃との兄弟対決に「もう関係ないですね」
感傷に浸ったのは、一瞬だけだった。夢に見ていたソフトバンク・川瀬晃内野手と「兄弟対決」を今季に果たしたオリックス・川瀬堅斗投手が、リーグ優勝奪還のため「私情」を捨て真剣勝負で臨む。
「もう、普通ですよ。兄弟というより、相手という意識の方が強いですね。もう関係ないですね、兄弟なんか」。川瀬が声のトーンを落として振り返ったのは、9月14日の京セラドームでの2度目の対決を右飛で抑えた試合直後だった。
初対決は、前日だった。2-7の8回1死一、三塁から6番手で登板。中村晃外野手に左犠飛を許し、甲斐拓也捕手を四球で歩かせたところで、牧原大成内野手の代打に川瀬晃を迎えた。スタンドがざわつく中、川瀬はカウント2-2から内角低めのストレートで二ゴロに仕留めた。
5歳上の兄を追う野球人生だ。大分商ではともに甲子園に出場。2015年にドラフト6位でソフトバンクに入団した兄に続き、2020年育成ドラフト1位でオリックス入り。兄弟対決を目標に支配下選手登録を目指したが、夢の実現に5年を費やした。
「子どもの時には、2人とも『俺がピッチャーをやる』と言って、争ったこともあります。昔のことを考えれば、兄弟で対決することはすごいことだと思いました」と、川瀬はしみじみと振り返る。
兄にヒットを許していないが「次は本塁打を打たれるかもしれません」
川瀬は中学の時、交通事故で生死をさまよう大怪我をして両親を心配させたことがあるだけに、兄弟がプロ野球の舞台で対決している姿を見せることができたことは、このうえない喜びでもあった。両親からは初対戦後に「お疲れ様。ありがとう」とねぎらいの連絡があったという。
3度目の対戦も右飛に仕留め、川瀬に軍配が上がった。新型コロナウイルス期間中の練習試合でも、2打席とも外野フライに打ち取っており、プロで安打を許したことはない。川瀬の今の夢は「両親に家をプレゼントすること」。そのためには、自身の活躍はもちろんのこと、リーグ覇者のソフトバンク打者を抑えてチームを勝利に導く投球が必要になる。
「今は(晃を)抑えていますが、次は本塁打を打たれるかもしれません。でも、同じ舞台でやっている限りは真剣勝負なので、全力で向かって行きます。まだまだ恩返しをしていないので親孝行をしていきたいですね」
支配下登録選手として迎えるオフ。これまでも帰省した大分の地元で一緒に体を動かしたことはあったが、育成選手全体の練習があるため期間は短く、本格的な合同自主トレをするのは初めて。練習でも兄弟対決も予定しており「1月から打者と実戦感覚が味わえるので、兄弟で刺激し合いたい」と意気込む。チームと両親のためにも、兄弟でペナントレースを盛り上げる。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)