3時間も待って育成指名の“後輩”に「伝言をお願い」 鳴らした電話、動いた心…若月健矢の人間力
オリックス・若月健矢が“贈った”先輩からの金言
名を捨てて実を取れ。オリックス・若月健矢捕手が、今オフのドラフト会議にて育成ドラフト3位でオリックスに指名された母校・花咲徳栄高の後輩に「(プロに)入れば一緒。心配ないよ」と不安を取り除くメッセージを送っていた。「後輩がプロに指名されたので、伝言をお願いしました。普通のことをしただけです」。いつも通り、冷静な口調で若月が口を開いた。
10月24日に行われたドラフト会議。花咲徳栄高の上原堆我投手が、オリックスから育成指名されたその夜、若月は教員同士で会食中の高校時代の恩師、岩井隆監督に電話を掛けた。「今シーズンの報告をさせていただきました」という若月は、電話を代わった上原の担任に「プロに入れば支配下も育成も関係ありません。コーチも区別なく指導してくれますから、心配しないでと伝えてください」と、上原への伝言を依頼した。
母校の後輩がプロ入りし、同じチームでプレーすることになったのだから、激励するのは当然のことで、若月にとっても「普通のこと」。ただ、激励をされた上原にとっては「特別なこと」だった。上原は直球を武器にした強気の投球でチームを2024年夏の甲子園に導いた右腕。ドラフトではチームメートの石塚裕惺内野手が巨人から1位指名されたのに対し、上原は育成指名だった。
「石塚の1位指名から3時間後くらいの指名だったので、評価という意味でその差を感じました。でも、若月さんの伝言を聞いて、プロに入ってからが本当の勝負だと思えるようになりました」と上原は心境を明かす。ドラフト前から「育成指名でもプロに行く」と決めていた上原だったが、プロ側の評価という厳しい現実に心は少し揺れたという。そんな中に届いた若月の言葉で、前を向くことができたと明かす。
同校OBで上原を担当した岡崎大輔スカウトは「若月さんがチームにいてくださるだけでも僕はうれしいのに、ドラフト当日に電話までしてくださるなんて。本当に面倒見がいい方で、僕と同じように上原もかわいがってほしいと思います」と感激した面持ちだった。
投手の持つ能力を最大限発揮できるような配球やリードをしてチームの勝利に貢献しても、日の当たることが少ない捕手という立場からか、常に謙虚さを失わず実績をひけらかすこともしない若月。選手間の人望もあり、2025年シーズンからは異例となる2度目の選手会長にも就く。金言が一時、失意に沈んだ投手の背中を押し、未来への扉に挑戦させたのだった。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)