阪神&オリのOBが監督1年目で頂点 現地ファンからも高評価「更に高いレベルに」

監督就任一年目でチームを台湾王者に導いた平野恵一監督(c)CPBL
監督就任一年目でチームを台湾王者に導いた平野恵一監督(c)CPBL

中信兄弟が2年ぶり10度目の台湾王者…統一とのシリーズを制す

 伝統的な行事は旧暦でお祝いする台湾。今年は新暦の1月29日が旧正月で、現在は「年の瀬」。だが、既に6球団中3球団の春季キャンプはスタートし、新たなシーズンに向け始動している。今回は昨年のポストシーズンについて伝える。(情報は1月19日時点)

 全6チームが前後期60試合ずつ戦う台湾プロ野球。2024年の前期シーズンは統一セブンイレブン・ライオンズが制したが、後期は中信兄弟が中盤から独走し優勝。年間勝率でもトップに立ち、台湾シリーズへの直接進出と最大5試合の主催ゲーム開催を決めた。

 もう1枠の台湾シリーズ進出をかけた4戦3勝制のプレーオフ(10月12~14日)は、統一と年間3位の楽天モンキーズの対戦に。1勝のアドバンテージを持つ統一は、第1戦でエース古林が好投し、投手戦を制して王手をかける。第2戦は大敗したが、第3戦は序盤からペースをつかんで8-5で逃げ切り。3年ぶりのシリーズ進出を決めた。

 前後期優勝チーム同士の対戦となった7戦4勝制の台湾シリーズ(10月19~25日)は、中信兄弟が1勝1敗で迎えた第3戦から3連勝。4勝1敗で制し、2年ぶり10度目の台湾王者に輝いた。台北ドームでシリーズ初開催となった初戦は大入り4万人を集め、5試合で勝負が決したにもかかわらず、観客動員数は過去最多の延べ13万2625人を記録した。

 勝負の分かれ目といえる場面を挙げる。まず初戦は最優秀防御率に輝いた統一のエース、古林のアクシデントによる降板だ。初回に統一は中信兄弟の先発、ホセ・デポーラ投手の立ち上がりを攻めて3点を先制。統一の先発・古林は3回まで無失点と上々のスタートを見せた。しかし4回、一度はマウンドに上がった古林が背中に強い張りを感じ、中信兄弟は4回、5回と1点ずつ返し1点差とすると、6回には打者12人の猛攻で一挙7点。逆転どころか試合まで決めてしまった。

元阪神&オリの平野恵一氏は日本人監督4人目のシリーズ制覇

 もう一つは、1勝1敗で迎えた第3戦、中信兄弟が3-0のリードで迎えた6回の場面だ。統一は1死から連続安打と四球で満塁のチャンスをつくる。ここで、平野恵一監督がマウンドに送り出したのは、2023年に抑えを務めた元阪神の呂彦青投手だった。「強心臓」が強みの呂は、併殺打に打ち取り、絶体絶命のピンチをしのいだ。流れをつかんだ中信兄弟打線は7回、曽頌恩外野手のシリーズ2本目となる3ラン本塁打などで4得点を挙げるなど10-0で大勝。2勝目を挙げ、シリーズの主導権を握った。

 第4戦、第5戦と、統一はいずれも1度はリードを奪ったものの、再度勝ち越しを許すと追い上げはならなかった。中信兄弟は第4戦は9回から呂、第5戦は8回からプレミア12代表の呉俊偉投手と、平野恵一監督が「優勝のキーマン」と語った2人をつぎこみ、僅差を逃げ切った。

 MVPには、21打数11安打、2本塁打、7打点と大活躍した中信兄弟の右打ちの強打者、曽が選ばれた。24歳はチームトップの打率.304、本塁打もリーグ7位の10本とブレーク。台湾シリーズでも大暴れした。台湾シリーズ終了翌日の10月26日には、追加招集でプレミア12代表に選出。スーパーラウンド進出をかけた豪州戦では左翼フェンス直撃の2点二塁打を放ったほか、スーパーラウンドの日本戦でも、早川隆久投手(楽天)から左中間を破る二塁打を放った。

 中信兄弟を台湾王者に導いたのが、現役時代にガッツあふれるプレーでファンを魅了した平野監督である。チームのレジェンド、彭政閔・前監督が体調面を理由に2023年末に1軍監督を辞任。指導力を評価され白羽の矢が立った平野監督は、「育てながら勝つ」ことを目指し、育成面も重視した。特に若手に対しては一挙手一投足にまで目を光らせ、競争意識が高まりチーム力は向上。「全員野球」を掲げたチームは、後期シーズン中盤から独走し、終わってみれば2位に6ゲーム差。チーム史上最多の年間70勝を挙げた。

 台湾シリーズでも、プレミア12でMVPに輝いた陳傑憲外野手がキャプテンを務める統一相手に4勝1敗で勝ちきり、日本人監督としてリーグ4人目となる台湾シリーズ制覇を果たした。表彰式でファンへ感謝の言葉を伝えた平野監督は、選手やコーチ陣に「厳しい監督だったと思うけど、よくついてきてくれた。本当にありがとう」と労った。

「台湾野球を更に高いレベルへ持ち上げたい」

「熱さ」だけでなく、指導者としての冷静さ、柔軟さも持ち合わせているのが平野監督の強みだ。中信兄弟はリーグ一の人気チームで熱狂的なファンも多く、3位に終わった前期はバントを多用する采配が批判されることもあった。しかし、平野監督はメディアを通じ、意図を丁寧に説明。後期は進塁打が打てるようになると、バントは減少。エンドランや盗塁を増やすなど戦術を調整したほか、打順も柔軟に組み替えた。

 監督就任にあたっては、2023年冬のジャパンウィンターリーグで交流をもったダニエル・カタラン氏を打撃コーチに招聘。米国のトレーニング施設「ドライブライン」での指導経験をもつカタラン氏は論理的な指導で打撃力アップに貢献、ホームラン数はリーグ1位、打点は2位となった。投手起用については「ケンちゃん」と呼ぶ王建民投手コーチに一任。王コーチの継投はシーズンが進むごとに冴え、台湾シリーズの投手起用はファンから「神継投」と称賛された。

 台湾シリーズ制覇直後、平野監督は次のように話した。「一生懸命やっているところは、みんな見てくれていると思うんでね。現役時代もそうしてやってきたし、自分はそれしかできないので。コーチで仕えてきた時も、自分が監督だったらという気持ちでやってきました。だから、こういうポジションを与えてくださったからには、命がけでやっています、外国人ひとりでもね(笑)」。

 さらに「厳しい指導者だと思いますが、皆さんが温かく迎え入れてくれて協力してくれて、リスペクトしてくれて、幸せです。あとは、日々勉強ですね。決して『自分のスタイル』でいく、というのではなくて中信兄弟を、そして台湾の野球をまずはアジアでナンバーワンになれるように自分ができることをする。それはアメリカの力を借りたり、日本の力を借りたりしながらです。台湾野球を更に高いレベルへ持ち上げたいと思っています」とも述べた。

 平野監督の姿勢は、選手やコーチ陣はもちろん、台湾のファンにも伝わっている。ユニークな人柄もクローズアップされるようになり、「平野(ピンイエ)」監督は人気も向上、いまや「名将」との呼び声も高い。「ひとりひとりのレベルであったり、チーム力については、まだまだ伸びしろ、向上の余地があるから、むしろ楽しみ」と語る。チャンピオンになっても「チャレンジャー」の気持ちで戦う姿勢を打ち出している平野監督。スローガンに「進化」を掲げた今季の中信兄弟の戦いぶりが楽しみだ。

(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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