大量の不在着信…告げられた訃報「冗談でしょ?」 急死の父に届ける甲子園の“晴れ舞台”

高松商・ペリー丈勇【写真:喜岡桜】
高松商・ペリー丈勇【写真:喜岡桜】

高松商は29度目の選抜出場…ペリー丈勇外野手の父は昨春に急死した

 ぶん投げた帽子が舞う。この日は季節外れな暖かさだった。3月18日に開幕する「第97回選抜高校野球大会」の選考委員会が24日に開かれ、高松商(香川)が21世紀枠2校を含む出場32校中最多となる29度目の出場を決めた。この知らせに、ペリー丈勇(じょうい)外野手(2年)は格別な想いを抱いている。「やっと夢が叶ったよ」。昨春に病気で急死した父のクリスチャン・マシューさんがいる空の彼方に目をやった。

 福岡県内にある実家でのことだった。ペリーは昨年3月、春季香川大会のスタンド応援を終えてから、夕飯を食べるために友人と高松市内の大型商業施設へ出かけた。スマートフォンの画面を点灯させると、一緒に暮らす祖母からの不在着信が大量に残っていた。「夜ご飯どうするの? 食べてくるん? くらいの連絡だと思ったんです」。いつも通り折り返すと、祖母の様子が普段と違っていた。

「『すごく大変なことになってる! お父さんが!!』って言われて。なんかもうショックで、あとはうまく聞き取れませんでした。福岡にいる母からの電話も取ったら、ずっと泣いとって……。どういうことかよく分からないまま、おばあちゃんと急いで電車に乗って福岡市内の病院に向かいました。なんかの冗談でしょ? とずっと思っていました」

 豪州出身のクリスチャン・マシューさんは、母・朋子さんとの結婚がきっかけで来日。笑顔が絶えない「ザ・外国人なお父さん」だった。ラグビーが大好きで、一緒に楽しもうと何度も体験会に連れて行ってくれた。しかし、だんだん野球に興味を持ち始め、ラグビーではなく野球がしたいことを伝えた。それを聞いた父はひどく悲しそうにし、反対されもした。

高松商に「行かせたくない」と泣いた父の愛…空の彼方へ届ける全力の“感動野球”

 それでも「やるからには!」と全力でサポートしてくれた。「お父さんは(地面に)座れないくらい大きいので、バケツに座ってボールを投げてくれていました」と、自主練習を手伝ってくれていた。その結果、中学2年時に軟式野球の全国大会へ出場。「高校でも、大学でも見ていたい」。そう胸を躍らせながら練習試合も欠かさず応援に来てくれた。

 そんな父を悲しませた出来事がもう1つある。自宅から遠く離れた高松商へ進学することに、首を激しく横に振ったのだった。「応援しているけど、僕のことが大好きだから行かせたくないと言いながら、ずっと泣かれて」。それでもやはり、最後はペリーの考えを尊重してくれた。

 高校入学後は週2回の通話が当たり前になり、ペリーも「それが楽しみだったんです」と少し照れくれそうに振り返る。遊びにでかけたこと、学校生活などの近況報告を受ける父はいつも明るかった。

 落ち着いた口調で父を追想するペリーだが、「焼かれている時に嘘じゃないんだと受け止められたんですが、まだどこかにいる気もしているんです」と胸中を明かす。昨秋に長尾健司監督から初めて背番号を託された。約1か月半後に控える選抜大会を見据えて「優勝できれば悔いはないです」と意気込んだ後、さらに「何をしている姿を見ても喜ぶ」人だった父への想いを紡いだ。

「日本人特有の全力疾走して、守備でもボールを全力で追っかけたいです。それがいいプレーに繋がって、ドラマみたいに熱中させられる、感動させられる野球ができたらと思っています」。家族と過ごす時間を何よりも大切にした父は、どれだけ離れても応援し、見守ってくれている。ペリーはずっとそう信じている。

(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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