早実二刀流エース“誕生秘話”　左投左打になった謎…父親が明かした「不思議」

立命大、プリンスホテルでもプレーし、立命大コーチも務めた父・秀典さん

　世代を代表する投手の1人になりそうだ。第97回選抜高校野球大会は22日、早実（東京）の主将を務める左腕・中村心大投手（3年）が高松商（香川）との1回戦に「7番・投手」で出場し、打っては2回の先制適時二塁打を含め4打数4安打3打点1四球、投げては8回1失点の大活躍。チームを8-2の快勝に導いた。

　昨夏の甲子園でも2年生ながらエースナンバーを背負い、早実の3回戦進出に貢献。新チームでは主将に任命された。この日146キロを計測し自己最速を更新したストレートも、“副業”とは思えない打撃もさることながら、無類のセンスのよさを感じさせたのは、覚えたばかりの“新球”チェンジアップを大舞台で堂々と投げ込んだことだ。

「先に点を取られたら、終わりだと思っていました」という初回2死三塁のピンチで、相手の4番・唐渡大我内野手（3年）に対し、ストレートとチェンジアップで緩急をつけてカウントを3-2とし、最後は外角低めのコーナーいっぱいの140キロ速球で空振り三振に仕留めた。5回2死満塁の窮地でも、ストレートを3球続けた後、内角低めのチェンジアップで投飛に打ち取った。

　実はこのチェンジアップを教わったのは、わずか4日前の18日のことだった。今大会開会式の入場行進を前に、全出場校が室内練習場に集められた際、面識のなかった横浜（神奈川）のエース左腕・奥村頼人投手（3年）に話しかけた。

「普通にあいさつをして『チェンジアップ、どうやって投げてるの？』と聞いたら、握りやリリースの感じを教えてくれました。彼が僕らの代で一番いい左投手だと思っているので、以前から話を聞いてみたいと思っていました」とあっけらかんと明かす。もちろん、チェンジアップを実戦で使うのは初めて。ぶっつけ本番で、投球の重要なアクセントとして使えてしまうところが凄い。

父も兄も右投右打、中村だけが左投左打になった謎

　そんな中村が野球を始めたきっかけは、“偉大な父”にあった。父・秀典さんは高校（奈良・天理）3年の時に、捕手として甲子園に春夏連続出場し、春の選抜は4強、夏は8強入りを果たした。ビデオで見た父の甲子園での勇姿は、中村の目に焼き付いている。秀典さんはその後、立命大、プリンスホテルで野球を続け、現役引退後には立命大のコーチも務めた。

　この日、アルプス席で応援していた秀典さんは「もう僕の高校時代より、心大の方がずっと凄いです。2年生で昨夏の甲子園を経験させていただいたお陰かなと思います」と脱帽。「私も、長男（中村の兄・一心さん＝城西国際大3年、投手）も右投右打なのに、心大だけは左投左打。気がついたら左で投げていました。不思議ですね」と苦笑する。「ひょっとすると、心大が野球を始めた頃、私がコーチを務めていた立命大の主戦投手が左腕だったので、それを見ていたからかなと思いますが、本人も覚えていないようです」と首をかしげた。

　中村は中学時代、京都市に住み、軟式の強豪クラブチーム「京都ベアーズ」でプレーしていた。「ベアーズ出身では、4歳上の田和廉さんも早実に進学し、現在早大で投手として活躍されています。一緒にプレーしたことはありませんが、田和さんに憧れて早実に行きたいと考えたようです」と秀典さん。

「中学に進学する際、本人は硬式に取り組むか、軟式にするかで迷っていました。実は兄の一心は中学時代に硬式をやって、怪我をしたことがありました。体への負担が少なかったことを含めて、結果的に軟式の京都ベアーズを選んでよかったと思っています」と述懐した。

　中村本人は「自分が早実に入学を決めてから、両親と兄にずっとお世話になっています。恩返しには、結果を出すしかないと思っています」と感謝を口にする。目標とする結果はズバリ、「日本一」だ。