女子1人でベンチ入り、家族に続いた甲子園の景色 CA風制服が話題も…描く将来像

日本航空石川・横田彩弥マネジャー【写真:加治屋友輝】
日本航空石川・横田彩弥マネジャー【写真:加治屋友輝】

日本航空石川・横田彩弥マネジャーが記録員でベンチ入り

 たった1人の女子部員も涙……。第97回選抜高校野球大会は23日、大会第6日が行われ、第1試合は日本航空石川(石川)が東海大札幌(北海道)と対戦。2度のリードを守れず、9回2死から逆転負けを喫した。チーム唯一のマネジャーで女子部員の横田彩弥さん(3年)は、客室乗務員のような制服で記録員としてベンチ入り。懸命にチームを鼓舞したがわずかに及ばず「夏にまた戻ってきて、今度こそ日本一になりたいです」と目を真っ赤にしながら話した。

 昨年1月の能登半島地震の影響で校舎が使用できず、全校生徒約550人が4月に系列の専門学校の生徒や教職員とともに東京都青梅市の大学跡地に避難。約450人(今春の卒業生含む)の生徒が東京で授業や部活動を続けてきた中、昨年5月から野球部だけは輪島市に戻って活動していた。野球部員は寮生活。横田マネジャーも例外ではなく「女子1人で高校生活を過ごしたのは、つらいこと、しんどいことも多かったです」という。

 能登地方は昨年9月には豪雨被害にも遭い、直後には野球部がボランティア活動にも参加。入学時には先輩マネジャーがいたが昨春卒業したため、以降は女子1人となり主務の立場に。取り仕切ることが増えて負担も大きくなっていった。多感な時期に、気軽に相談できる友人や家族が近くにいない寂しさを感じるのは当然だろう。

 野球部のマネジャーを目指したのは中学時代。父と兄が高岡商(富山)で高校野球を経験しており、高校野球に強く興味を引かれた。出身地の富山県から日本航空石川の練習見学に出向き、中村隆監督に「甲子園に行って日本一になりたいです。マネジャーをやれなかったら、この高校に入る意味がありません」と訴えると「一緒に日本一を目指そう」。そう応えてくれたことが越境入学の決め手となり、家族も背中を押してくれた。

巨人・阿部監督のファン、兄は2019年夏の甲子園出場

 幼少のころから野球の話題にあふれた家庭環境。家族で東京ドームにプロ野球観戦に行ったこともあり、当時は捕手として活躍していた巨人・阿部慎之助監督のファンだという。将来は客室乗務員などの航空系の職業ではなく「父が女子野球の普及活動をしているし、女子でも野球に関わる活動はできる。野球に携わる仕事をしていきたい」と夢を語る。

 6歳上の兄・大輝さんは2019年夏の甲子園でメンバー入り。兄に続いて甲子園の土を踏んだことに「中学の時から目指していた場所で、凄くいい場所。甲子園に立てて、まずは良かった」と喜びをかみしめる一方、勝利はつかめず「親にも目標は日本一と言ってきたので悔しいし、申し訳ない気持ち。夏にまた戻ってきたい」。目頭を押さえながら前を向いた。

 昨年は1回戦で常総学院(茨城)に0-1で惜敗。今年も9回2死までリードしながら敗れた。能登半島地震後は2年連続で1点届かず2019年春以来、遠ざかる甲子園での白星。一時浮上していた、東京で生活する一部生徒が能登に戻る計画は見送られ、野球部も4月からは東京での活動になる。

 苦難の道はまだ続く。それでも「同期は1年生の時に地震が起きていろんな所を転々として生活したり、しんどい中でやってきたのでチームワークはどこにも負けない」と選手とは強い絆で結ばれている。何度も繰り返した「夏に戻ってくる」と「目標は日本一」。横田マネジャーの闘いもまた、続いていく。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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