敗れても6盗塁で翻弄、名門も「いつもとは違う」 ノーサイン野球が残した衝撃

智弁和歌山と対戦したエナジックスポーツナイン【写真:加治屋友輝】
智弁和歌山と対戦したエナジックスポーツナイン【写真:加治屋友輝】

智弁和歌山との2回戦、ノーサインで6盗塁成功

 第97回選抜高校野球大会は25日、大会第8日が行われ、第1試合はエナジックスポーツ(沖縄)が智弁和歌山(和歌山)と対戦。先発の久高颯投手(3年)が4回途中で7失点KOされるなど投手陣が打ち込まれて4-9で敗れた。それでも創部4年目の新鋭校の攻撃陣は最後まで諦めずに反撃。持ち味のノーサイン野球で6盗塁と積極的に仕掛けて、甲子園通算72勝の強豪校に一泡吹かせた。

 初回、先頭のイーマン琉海内野手(3年)が初球いきなりセーフティバントの構えで揺さぶりをかける(結果はボール)。3回も先頭の宮里康平内野手がセーフティバント(結果は捕ゴロ)。その後、2死一塁となり砂川誠吾外野手(3年)は2球目にセーフティバント、4、5球目にはエンドランを仕掛けた。いずれもファウルになったものの、続く6球目にイーマンが二盗を成功させた。

 打線は9安打に加えて6四球を選んで塁上をにぎわせる。2度の盗塁失敗はあったものの、決して消極的にはならない。選手個々が考えながらチーム全体で6盗塁をマークし4点を奪った。指笛が鳴り響くスタンドでは市尼崎の吹奏楽部が至学館(愛知)との1回戦に続いて友情応援。岡山県で開催中の全国大会に出場していた宜野座中の野球部員も駆けつける中、アルプス席は何度も沸き返った。

 神谷嘉宗監督も「攻撃は、この舞台でもちゃんと自分たちの野球ができたのは収穫。びっくりするぐらいでした。選手も充実した顔をしている」と手応えを口にする。序盤から智弁和歌山バッテリーにかけ続けたプレッシャー。千葉黎明(千葉)との1回戦で90球完封のマダックスを成し遂げた渡邉颯人投手(3年)の球数はかさみ、4回で82球を投げさせてマウンドから引きずり降ろした。

智弁和歌山・中谷監督、泰然自若のはずが「重い空気に」

 智弁和歌山の中谷仁監督は試合前「“何をしてくるか分からんぞ”と思わせるのが相手の作戦。(逆に)何してくるか分かるやん、って選手には話しました」。野球にはセオリーがある。例えば無死一塁では送りバント、エンドラン、右打ち……。選択肢は限られる。2死三塁で注意するのはセーフティバントだろう。サインが出るか出ないかの違いだけだと受け止めていた。

 元プロ野球選手でもある中谷監督は「状況によって、選手がアイコンタクトで対応している。でも、その状況でやれることは限られている。うちは和歌山大会や普段の練習試合から揺さぶりをかけられていますから」と説明。泰然自若の構えだったが、多彩な攻撃を仕掛けられた試合後は「高校生のバッテリーには難しい。警戒して、重い空気になっていた。いつもとは違う雰囲気だった」と苦しんだことを認めた。

 送りバント、ヒットエンドラン、バスター、盗塁といった攻撃の作戦を、全てグラウンドで戦っている選手たちの判断と、アイコンタクトに任せるノーサイン野球。浦添商、美里工に続いて甲子園に導いた神谷監督は、早くも夏に目を向ける。「どんどんいっちゃうからね。セオリーなら走らない場面でも走っていた。それがうちの野球だし、失敗も含めてうちの野球なんでね」。その上で「どう修正していくかも考えないと。いかにブレーキをかけるかも必要になってくる」と成熟させていく考えを示した。

 創部4年目で出場した甲子園で初戦を勝ち、2回戦では伝統校相手に善戦。確かな足跡を残した69歳の大会最年長監督は“新しい野球”に取り組む原動力を問われると、こう言った。「生涯、“青い春”。子どもたちと夢を追いかけるのは幸せです」。今年6月に古希を迎えるベテラン監督は、まだ青春の真っ只中。若さあふれる指導で、ノーサイン野球を極めていく。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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