恩師から継承も「比較対象が大きすぎ」 31年ぶりVならず…元プロ監督の「試行錯誤の日々」

智弁和歌山・中谷仁監督【写真:加治屋友輝】
智弁和歌山・中谷仁監督【写真:加治屋友輝】

智弁和歌山、選抜決勝で敗れ31年ぶりの優勝を逃す

 第97回選抜高校野球大会は30日、大会最終日を迎えて決勝が行われ、智弁和歌山(和歌山)が横浜(神奈川)対戦。初優勝した1994年の選抜以来31年ぶり2度目となった対戦は4-11で敗れ、31年ぶりの春日本一を逃した。

 先発の渡邉颯人投手(3年)が初回に先制点を献上。今大会、初めてビハインドの展開を強いられた。2回にセーフティスクイズで追いついたが、3回に失策が絡んで2失点。6回もミスが絡んで6失点し、1度もリードを奪えないまま敗れた中谷仁監督は「残念です。何とか食らいついて後半ワンチャンスで勝負だと思っていた。終始、格上と感じさせられた。力の部分を見せつけられました」と潔く敗戦を認めた。

 選手時代の1996年選抜に続く春の準優勝。翌1997年の夏の甲子園は主将として全国制覇に導いたことで、大学進学や大手企業での社会人野球の道を考えていた人生は激変した。「日本一になってしまったから、阪神のドラフト1位にもなってしまった。人生は甲子園によって大きく変わりました」。阪神、楽天、巨人と3球団を渡り歩き、野村克也監督、星野仙一監督、原辰徳監督らの下でプロ野球生活を15年間送った。

 2017年に要請を受けて母校である智弁和歌山の臨時コーチを務めると、2018年に恩師でもある元監督の高嶋仁氏の後を受け監督に就任。甲子園通算68勝を挙げた名将からのバトンタッチは「比較対象が大きすぎて、嫌でしょうがなかった」という。勝って当たり前の和歌山大会。甲子園でも上位進出を求められる。「スポーツは勝ったか負けたかなので。(負けたら)受け止めるしかない。いろんなものを覚悟して、悪者になるぐらいのつもりで思い切って自分の考えの下、いろんなことを進めていくしかない。そう思って腹を決めた」。

中谷監督の苦悩…高嶋前監督の野球の継承「今も模索中」

 プロ野球で15年プレーしたが、レギュラーではなかった。「プロではなかなか結果は出なかった。活躍してたら、僕も阪神の監督だったかもしれない」。そう冗談めかした一方で「プロで活躍しなかったのは、最終的には智弁和歌山で何かを伝えるために経験させられたのかもって思える結果にしたい。いろんな名将と呼ばれる方々の下で野球を学んできたのは、智弁和歌山の子どもたちに余すことなく渡していきたい」と秘めた思いを明かした。

 2019年には野球部の選手寮を開設。自宅から通えない選手を受け入れ、父親代わりとなって料理をふるまうこともある。部員の半分以上が寮生活を送り「寮というより大きな家という感覚」で一体感を高めてきた。就任4年目の2021年には夏の甲子園で日本一。「まだまだ(高嶋監督の野球を)受け継がなきゃいけない。改善した方がいいのか、今も模索中というか、簡単にはいかない。物凄く重い名前の学校、野球部なので、今も全うできているのかどうか分からない。試行錯誤しながらの日々です」。

 今大会は出場32校中トップの21犠打を記録。強打に加え確実に1点を取りきる野球で決勝まで進んだ。「苦しい時もスタンスは変わらず、子どもたちにとって何が最善かを考えながらやってます。最後に横浜高校と試合をして、いろいろ感じさせられたし、選手の成長を見られた。また夏に向けて頑張りたい」。プロ野球を経て就任8年目。名門校を預かり、選手とともに成長していく道はまだ、半ばである。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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