ロス五輪は「あと3年しかない」 “レジェンド”上野由岐子、46歳で目指す大舞台への“本音”

取材に応じた戸田中央メディックス・後藤希友(左)とビックカメラ高崎・上野由岐子【写真:橋本健吾】
取材に応じた戸田中央メディックス・後藤希友(左)とビックカメラ高崎・上野由岐子【写真:橋本健吾】

女子ソフトボール界のレジェンド・上野由岐子、ロス五輪に向け「あと3年しかない」

 2028年ロサンゼルス五輪を見据えた選手たちのシーズンが今年も始まる。女子ソフトボール「ニトリJDリーグ」が12日に開幕。4度目の五輪出場に期待がかかるレジェンド・上野由岐子(ビックカメラ高崎)と、新エース候補の後藤希友(戸田中央)の独占インタビューが、Full-Countで実現。3年後の大舞台を見据える新旧のエースが本音をぶつけった。(今回は後編)

 日本のエースとして五輪に3度出場し、2度の金メダルを手にした上野は今年43歳のシーズンを迎える。22歳で初出場したアテネ五輪、脂の乗り切った26歳で出場した北京五輪では伝説となった「上野の413球」、そして東京五輪では胴上げ投手となり連覇に貢献した。3年後に控えた“4度目の五輪”をどう見据えているのか。

「あと3年しかないという感じです。この3年間でどんな準備ができるのかが大事になる。ただ、選手で関わるのか、指導者側として関わるのか。関わり方の立場では自分のなかではっきりさせてない。どっちの準備もしなければいけない。選手として必要としてくれるのか、コーチとしてなのか、それとも『お前がいないくても大丈夫』なのか。それは分からない。どこに転がっても後悔しない準備をしていきたい。どのような結果になっても自分のなかでは引き出しになる。色んな立場を想定していきたい」

 選手として46歳で迎える4度目の五輪へ準備は惜しまない。五輪出場を決めるのは自分ではなく、監督や首脳陣というスタンスは変わらない。「あと3年しかない」という言葉は、自身に向けたものだけでなく世代交代していく日本代表全体に向けたものであった。

「次は3連覇がかかっている。なお且つ、ライバルである米国の本拠地で開催されます。多分、米国と金メダルを争う戦いをしないといけない。色んなプレッシャーだけじゃなく、ネガティブ要素、アウェー感なども準備しないといけない。そうなると一番、勝つことが難しい大会になるんじゃないかと。

 今の日本には足りないところが沢山あります。まずは圧倒的に経験値がない。去年、イタリアでのW杯で優勝はしたけど、周りの環境が同じだったから勝てた。っていう感覚なんです。今のままじゃ多分、日本は(米国に)2回は勝てない。投手力も打力も、色んな意味でスキルを上げていかないといけない。去年の結果は言い方は悪いですけど、周りがコケてくれた。結果を残せたが、日本の実力で勝ったという感覚は正直、強くない大会でした」

新エース候補の後藤はトヨタ自動車から戸田中央に移籍「すごく賛否両論があったと思います」

 実力と経験を兼ね備えた上野だからこそ、若い世代には惜しみなくその“経験値”を伝えていく。国際大会で必要なもの、国内リーグだけでは得られない空気感――。若手の成長がなければチームの成長は難しいと考えている。

「投げている感覚では国際試合、国内試合の抑え方が全然違う。使い分けないといけない。ってことは打者も使い分けないといけない。そこの一線をしっかり選手が把握していかないといけない。“たまたま”結果が出ている選手が今は多い。去年は打ったけど、今年は打てないみたいな、あからさまにでる。でも経験している、分かっている選手は年齢じゃない。どこでいつ打つか、経験している選手は分かっている。まだ、まだ準備していかないと。若い選手がどれだけ伸びてくるか。とにかく伸びてきてほしい。ベテラン選手は計算はつくけど、若手は計算できない。ニューフェイス、どんどん出てこいって思いますね」

 一方で、後藤は日本の新エースとして大きな期待が込められている。20歳で初出場した東京五輪では“3番手”ながらリリーフとして金メダルに貢献。その後は順調に成長し、今季はMVPや最優秀防御率など数々のタイトルを獲得し、リーグ連覇に貢献したトヨタ自動車から戸田中央に移籍。西地区の絶対王者から、東地区3位が最高順位だったチームへの移籍には特別な思いがあった。

「移籍にはすごく賛否両論があったと思います。周りから見れば成績は去年まで通して上手くいっているはず。そこを抜けてまで勝負にいくことあるのか? と思われたかもしれない。ただ、昨年の世界大会(イタリア)で感じた、自分の投球を進化したい。何か変えたい、変えなければいけないと思いました」

 更なる成長を期待し、今オフは1月末に米国へ向かった。アトランタ、シドニー五輪を連覇し日本のリーグでも投打の二刀流として8度のMVPを獲得したミッシェル・スミス氏に弟子入り。リリーフだけでなく先発としてフル回転できるタフさ、制球力、変化球など多くを学んだ。そして、超えなければいけない“レジェンド上野”の領域に足を踏み込む覚悟だ。

上野が求めるエース像「コンディショニングに有無をいわさず結果を出す」

「ロス五輪は欲を言えば選手として一緒にやりたい。宇津木監督からは自分が代表のエースとしての自覚が必要と言われた。昨年のW杯を優勝できたのは上野さんが後ろにいてくれたから。もし、いなかったら優勝はなかった。そこでいくと、頼ってしまっている部分はすごくある。自分が変わらなきゃいけないし、頼りすぎもよくない。それ以上の結果を求めていかないと。ただ、追いつくだけではその結果は越えられない。自分としても高望みしないと。上野さんを超えることを目標としてやっていきたい」

 並々ならぬ決意を語る後藤。そんな、日本のエース候補に成長した後輩からの言葉に上野はどこか嬉しそうだった。ただ、その実力を認めつつ、更なる進化を求めている。自らが歩んできた道のりを重ねながらゆっくりと口を開いた。

「全然、さくっと越えてほしい。後藤はそのポテンシャルは持っている。ただ、やっぱりまだ知らないことの方が多すぎる。エースは自分のコンディショニングに有無をいわさず、結果を出すのがエース。調子が悪いから、ケガしてたから、どうだったから…とかそういうピッチングをしてほしくない。ポテンシャルをもってるからこそ色んな事を期待するし求めちゃう。自分もそうやって求められてきた。心の葛藤とかしながら、今の自分が作り上げてきた。そういう経験を彼女にもしてもらいたいし、必要だと伝えていきたい」

 日本はソフトボール大国であり、国内のJDリーグも「世界最高峰のリーグ」と呼ばれている。3年後の五輪で日本代表はどのような姿を見せてくれるのか。残された時間はわずか。大舞台を見据えた“2人のエース”が、新しいシーズンのスタートを切る。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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