4連敗も東大が“攻略”したプロ注目右腕 打力向上生む特訓「デグロムに比べれば打てそう」

開幕4連敗も明大2回戦では10安打4得点…打力向上の裏にある“VRトレ”
連盟創設100周年を迎えた東京六大学野球の春季リーグで、東大は開幕から4戦全敗。しかし、昨秋のリーグ戦で法大と慶大からそれぞれ1勝を挙げ、2017年秋以来14季ぶりのシーズン2勝をマークするなど進歩も見せている。その裏には、東大らしいVR(バーチャル・リアリティ)などを活用した科学的アプローチがある。
簡単には終わらなかった。20日の明大2回戦で1-9とリードされた東大は9回、プロも注目する4番手の最速151キロ右腕・菱川一輝投手(4年)を攻め、打者9人で3安打2四球1犠飛を集中。3点を奪って食い下がった。敗れたものの10安打で4得点を挙げた。
大久保裕監督は「最初からヒットは出ていた。なかなか点に結びつかなかったけれど、終盤に追い上げた。今後の慶大戦、法大戦につながるゲームだったと思います」と手応えを口にした。「明大は出てくる投手がことごとく150キロ級。その速い球をなんとか打とうと対策してきたお陰で、ある程度いい結果が出ました」とうなずく。
対策の1つが、昨年から導入したVRを使ったトレーニング。専用のゴーグルを装着すると、VR空間上に相手投手のフォームや投球が実際に打席に立っているかのようにリアルに映し出される。東大の場合、実際にバットを持つことはしないが、畳の上で映像を見ながらタイミングを取る練習をしているという。東京六大学の他校の投手のうち、昨年主力として活躍した投手の映像は全てストックされている。
4番の大原海輝外野手(4年)は「特に球の速い投手に対しては、ストレートを中心にVRを見て想定ができています。みんなファーストストライクから積極的にスイングできるようになっていると思います」と効果を実感している。
メジャー剛腕の投球も“体感”…「俺たちでも打てるんじゃね?」
明大の先発は1回戦が最速150キロ左腕の毛利海大投手(4年)、2回戦が153キロ右腕の高須大雅投手(4年)だった。いずれも今秋ドラフト会議で上位指名の可能性がある剛腕だ。大原は「明大戦に向けては酒井(捷外野手=4年)の提案で、もっと速い球を見ておこうと、メジャーリーグの(ジェイコブ・)デグロム(投手=レンジャーズ)のVRも見ました」と明かす。デグロムといえば、2度のサイ・ヤング賞を誇る最速164キロ右腕。「デグロムを見てから明大の投手の球を見ると、『俺たちでも打てるんじゃね?』みたいに思えました」と笑う。
1回戦の前には左腕・毛利対策として、“人類最速”の169.1キロを計測したことで知られるレッドソックスの左腕アロルディス・チャップマン投手のVRも見た。しかし、こちらには「『ヤバい、絶対に打てない』となりました」と心を折られたようだ。
今月10日の早大2回戦でも、VRは効果を発揮。相手先発は対戦が少なかった田和廉投手(4年)だったが、5回までに6安打で3点を奪った。大原は「田和投手の球は独特の軌道ですが、みんな気にせず打ちにいけたのはVRの効果だったと思います。VRを100球くらい見ていると、タイミングが合ってくる感じがありました」と証言する。
VRだけではない。東大では3年前から専門のアナリストを置き、打撃では打球速度、打球角度などのトラッキングデータを基にしたアドバイスを送っている。66歳の大久保監督は「その辺りは私にはよくわからない部分があるのですが、選手たち主導でやっています」と信頼を寄せる。
東京六大学野球において東大は、高校までの実績、経験、選手層などで他校に劣る。それでも東大らしいやり方で、差を詰めようと奮闘している。今季の目標は、同一カードで2勝しての勝ち点奪取。実現すれば、こちらも2017年秋以来8年ぶりとなる。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
