松井秀喜氏、50歳を迎えても秘めた“こだわり” 未来を見据え意欲「見せてあげたい」

野球教室に参加した松井秀喜氏【写真:宮脇広久】
野球教室に参加した松井秀喜氏【写真:宮脇広久】

両翼98メートルの球場で右翼フェンス越えの一発披露「よかった!」

 巨人、ヤンキースなどで活躍し日米通算507本塁打を放った松井秀喜氏(ヤンキースGM付特別アドバイザー)が運営する「Matsui 55 Baseball Foundation」は10日、都内で少年野球教室を開いた。日本では11回目、米国を含めると34回目の開催。松井氏自身、恒例のフリー打撃披露で11スイング目に右翼フェンスを超える一発を披露した。“ゴジラ”は来月12日の誕生日に51歳となるが、「子どもたちに“生”のホームランを見せる」ことへのこだわりはまだまだ強い。

 松井氏のフリー打撃が披露された東京ガス大森グラウンドは、両翼98メートル、中堅122メートルの本格的な規模だ。野球教室に参加した35人の子どもたちから「ホームラン、ホームラン!」、「打てー」と声援を受けた松井氏。11スイング目にバットが快音を発すると、打球は右翼フェンスを越え、後方の防球ネットを直撃した。中腰になって打球の行方を見守っていた松井氏はその瞬間、思わず両拳を振り上げガッツポーズ。子どもたちから拍手を浴びながら、思わず「よかった!」と大きく息を吐いた。

 少年野球教室で恒例となっているフリー打撃披露だが、松井氏は「最近、飛距離が落ちたことを実感していて、いつまで(柵越えを)打てるだろうと思っている中で、今日打ててよかったです。本当は(前日から降り続いていた)雨がもう少し降って、フリー打撃がなくなればいいと思っていたのですが、結果的に柵越えが出たので、やれてよかったと思います」とちょっぴり弱音を吐いた。

 とはいえ昨年9月、日米通算4367安打のイチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)率いる野球チーム「KOBE CHIBEN」の一員として、東京ドームで高校野球女子選抜と対戦した時には、2万8483人の観客の前で8回に右翼席へ豪快な3ランを放った。初回の守備で右太ももを痛め、足を引きずりながらの一発に、熱いハグで出迎えたイチロー氏が「他人のプレーを見て涙が出たのは、初めてかもしれない」と吐露したほどだった。

昨年9月“チーム・イチロー”での一発は「アドレナリンのお陰」

 それでも松井氏は「あれは試合の緊張感とか、相手のボールの速さとか、いろいろなことが関係していました。緊張感って、やっぱり大切なんですよ。お客さんが何万人も入れば、自然にアドレナリンが出ます」と説明。「それに引き換え、今日はみなさん(報道陣)の前だから緊張感ゼロ、むしろマイナスですよ、はっきり言って」と笑わせ、それでも柵越えを打てたのは「お子さんたちにホームランを見せてあげたいという気持ちはありますから。お子さんたちのエネルギーが、マイナスをプラスにしてくれました」と語った。

 衰えを感じつつも、できる限り子どもたちに“生”のホームランを見せ続けたいという意欲は強い。「それはそうですよ。お子さんたちが目の前でホームランを見たら、多少なりともテンションが上がるでしょう。打てるように頑張っています」とうなずく。「ただ、こういう広い球場はもうダメですよ。そろそろ球場選びも厳選していかないと」とも付け加え、また笑わせたが、日本随一の長距離砲だった男の矜持が垣間見えた。

 松井氏が2012年限りで現役を引退してから13年。少年野球教室の参加者の子どもたちの中に、松井氏の現役時代の姿をリアルタイムで見た者はいない。むしろ、付き添いの父母の方が興奮気味だった。

 小4の小浦稔くんは、松井氏の印象を「体が大きくて、筋肉がすごかった」と表現し、憧れの野球選手は誰かと聞くと、当然のように「大谷選手」と答えた。一方、38歳の父・拓郎さんは「僕にとって、松井さんは“神”です。巨人で落合(博満氏)さんとクリーンアップを組んでいた頃から憧れています。今日は子供たちが松井さんに『打て、打て』と声をかけるのを見て、なんだかおこがましい気がしました」と述懐した。ちなみに小浦くんは今のところ、野球を見るのは大好きだが、プレーヤーとして野球を始めるかどうか、ためらっているところだという。

 松井氏は毎年こうして地道に野球教室を行っている。将来、還暦を超えた頃に、「実は松井さんの教室に参加したことが、野球を始めたきっかけでした」と申し出るプロ選手が現れたとしたら、松井氏にとって極上の喜びだろう。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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